しおかぜ町も夏の陽気である。
だるい。
まだ、暑さに体が慣れていない。
喫茶『エルベ』に香田さんがいた。
アイスコーヒーにガムシロを2個入れている。
まあ、好き好きだけれどね。
私は5月になってから
なにかとバタバタしていて、
ギャンブルどころではなかったのだが、
香田さんは好調らしい。
ごきげんだ。
「宝くじまで、当たっちゃったよ」
どうせ、連番で10枚買ったらひとつは当たる
6等200円だろ。
そう思ってたら、4等1万円だと言う。
「え、すごいじゃないですか。なかなかないですよ」
「だろ~」
ご満悦である。自慢したくて仕方がない様子だ。
「運を全部使っちゃったな。もう、競馬もだめだよ、きっと」
マスターが口をはさむ。
「うるさいな。これからは俺の時代だ」
香田さんは、元気いっぱい、意気軒昂である。
さすがは、ガムシロ2個の甘いアイスコーヒーを飲む男だ。
「それじゃあ、今日はごちそうさまでーす」
思いっきりの笑顔で、帰ろうとしたが
拒否された。
「センセー、それはないない。自分の分は自分で払いな」
残念、運を分けてはもらえないようである。