しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/05/28ダービーの日に

三ツ色は、ダービーの記憶を消す。

そういうことだってある。

 

一万円の損失はともかくとして

スペースシャワーTV

小田和正さんのライブを見ている。

俺ら(あえて言ってる)世代にはささる。

バブルやバブル後の、ラブソング。

いっそ、いさぎよいラブソング。

今を生きる人たちには

恋なんて、そして、

恋愛ごっこなんてしてる場合じゃないよ。

そんなラブソング。

ピュアだけど駆け引きがあり、

ゲーム性がある恋愛。

経済的に余裕があるからできるんだよ、そんな駆け引き。

確かに、そうかもしれない。

 

「お金がないんです」

そう言ったのが印象に残っている。

優理。

例によって、萌花に紹介された。

「何かあったら、相談に乗ってあげてよ」

いつものような口のわるさではなく

口調が真剣だった。

 

優理は独り暮らしである。

両親や親族はどうしているのか、私は知らない。

そんなこと聞けやしない。

上手にメイクをすれば、なかなか魅力的。

なんて思ったりする、三ツ色は。

 

夜遅く、酔っぱらって帰って来た。

最寄り駅までたどり着き、

家まで、ふらふらと歩いていた。

深夜の道路工事。

「どうぞ」

赤く光る棒を振って誘導する人。

女性の声だった。

顔を見たら

優理だった。

お互いに気付いた。

知らぬ顔をして通り過ぎた。

 

「なにやってんだよ」

そのとき軽く言えた方が、

よかったかもしれない。

後日、顔を合わせたときに気まずかった。

 

「お金を稼がないといけないんです」

優理が恥ずかしそうに言う。

いや、それは恥ずかしいことじゃないと思う。

事情があって、親の援助は得られない。

何をやらかしたんだ、お前。

そして、なんでこんな家賃や物価の高い地域にいるんだ。

 

「だいたいさあ」

萌花が口を挟む。

「三ツ色、なんでそんなに遅くに帰って来たの?

どこで、何してたの?」

今、それ、必要な質問? 

あと、お前、俺のかみさんか?

 

なぜか、萌花と優理、私で会うことになった。

駅前の「ひがしむら珈琲」である。

 

優理が、親から離れて

独り暮らしをする理由。

萌花が、怒りを滲ませながら説明した。

なるほど、

現実にそういうことがあるんだ。

ここでは、父親の性癖、とだけ書いておく。

 

当然(なのか?)経済的援助は受けられない。

優理は生活費を、自分で稼ぐ。

昼は事務系の仕事をし、夜はアルバイト。

深夜の割のいい仕事。

私が出くわしたのは、そんなときだったわけだ。

 

しおかぜ町で暮らすのは、萌花がいるからだ。

「そのオヤジがきたらさ、

私のところでかくまってあげるのさ」

 

いいぞ、萌花。それでこそ、萌花だ。

で、私は?

「オヤジが来たら、やっつけてよ」

えーーー!

である。

どんな、マッチョなオヤジ来るか、わかんないじゃん。

「あ、それは、だいじょうぶです」

優理は言うが、不安ではある。

まあ、口では勝てるかもしれないけど。

 

それにしても、

こんな若い子が

理不尽な目に(しかも親から)あって

家を飛び出し、

一人で生きている。

これが、2023年の日本なのかと思ってしまう。

ダービーがどうのこうのって言ってられないだろ。