しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/05/30冒険占い師ルーメン

ルーメンである。

しおかぜ町から2023/03/20② - しおかぜ町から

さすらいの占い師から連絡が来た。

ZOOMで話す。例によって、ヘラヘラ笑っている。

「どこだと思う?」

画面では、背景は白い壁だ。

確か、前は青森だったから……

「秋田とか岩手か?」

あはは、ちがうよ。馬鹿にしやがった。

ジブチ

混乱する。ジブチ

確か、自衛隊が行ってるとこじゃないか?

私が無知なのかもしれないが、

こんなに、良好なインターネット環境があるのか。

「そこって、行っていいとこなのか? 日本人が」

話をしながら、外務省のホームページを見る。

 

  1. 4月28日午後6時28分(現地時間同日午後0時28分)、スーダンからジブチに退避していた邦人とそのご家族等、合計48名の方々が、政府の手配したチャーター機により、ジブチから本邦に向け出発しました。
  2.  

「おいおい」

聞けば、エチオピアから陸路で入国したという。

エチオピアは平和だったよ」

「そうか」

と言ったものの……。

何でも、すごい能力の”予言者”がいるらしい。

そいつ(失礼)に会うために、気が遠くなるような旅をした。

完全に、イスラム教文化圏だ。

(失礼だが)チャラチャラした

(占い師といえど)ジャパニーズの若い女子が

戸惑うことは多いだろう。

ところが、画面のルーメンは

えへらえへら笑っている。

すごいやつだな、お前。

「で、どうしたんだ? 急に連絡してきて」

「そうだねー」

笑顔。少し、頬が引きつる。

「なんか、安心するんだよね、先生と話すと」

私が教員時代、担任だった。

今と同じようにヘラヘラして、本心を見せなかった。

夜遅くに補導されたことも、一度や二度ではない。

正直、扱いにくいタイプだった。

彼女にとって、私が、よい教師だったかどうかもわからない。

「危険なことはないのか?」

「ここはだいじょうぶ。それに何かあっても自己責任だから」

それでいいのか。本当に?

ただ、彼女にとっては、

たとえ危険であっても、行く意味があった。

「そこまでして会う占い師なんだな?」

「予言者、ね。そうだよ。すごかった。『お前はコペ(神戸のことか)で産まれて、親に捨てられたんだ』と言われた」

後半は本人の受取り方次第のような気もするが……それよりも

「いや、その人は日本語を話すのか?」

「そうなのよ」

「え? 日本人じゃなくて?」

「もちろん。ソマリアの人」

聞けば、完全ではないにしても、どんな言語でも話すらしい。

いやいや、予言者じゃなくて、語学の天才ではないか。

「だから、言ったでしょ。すごいのよ、もう神様なのよ」

たしかに。

とはいえ、私としてはルーメンに無事に帰国してほしい。

「そりゃあ、不安よ。帰りもエチオピア経由で、

日本まで、四日も五日もかかる。だからね」

えへへ。ルーメンが笑う。

「先生と話したかった。安心する」

ネットの環境がよくて何よりだ。

こまめに連絡してこいよ、と念を押す。

彼女には頼る大人がいなかった。

両親は離婚し、彼女を引き取った母親も亡くなった。

こんなときだ。私が親代わりになってやろう。

口にはしないけどな。

「早く、日本に帰って来て、今年の下半期の運勢を見てくれよ、俺の」

「もちろんだよ、無事に帰れたら」

弱気なことを言いやがる。

「何、言ってんだ。覚悟して旅に出たんだろうが。

ネガティブなこと口にするな」

少し、怒ってやる。

「うん、そうだね。そうだよ。わー、三ツ色さんに怒られ」

なぜか、そこで通信が途絶えた。

不安だが、

電波が不安定だから、と思うことにする。