しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/06/05ぷんすか

しおかぜ町は、その名のとおり海のそばだが、

川だって流れている。

いつもは、水量が多くはないが、

雨上がりには、いい感じになる。

滝(?)。

私の好きな景色だ。

いつもより、写真大きめにしておいた。

 

散歩がてら、川沿いを歩いていたら

車が停まりウインドウが開く。

木俣さん。

ソムリエ、萌花の師匠。

「お久しぶりです。乗りませんか。

いいところまで、お送りしますよ」

せっかくの申し出なので、甘える。

BMWの助手席に乗り込んだ。

木俣さんが車を出す。

さすがにエンジン音が、静か。

「ご自宅でいいですか?」

「あ、はい。ありがとうございます。

どうも、ご無沙汰しちゃって」

シートベルトをしているので、

上体を傾けることができない。

頭だけ下げた。

「そうですねえ。また、いらしてください。

お待ちしてますよ。いいワインも入ってます」

木俣氏の勤務する店、

つまりは萌花が働いている店でもあるわけだが、

シェフの名前がついた有名なフレンチレストランである。

ハレの日に思い切って。そういうイメージである。

「そうですね。そうなっちゃいますよね」

木俣氏も否定しない。

コースを頼み、ワインを奮発すると、

数万円払うことになる。

「〇〇(シェフの名だ)も、そこが悩みでしてね」

格と味は下げたくないが、それに伴う価格になってしまう。

高額な支払いを自慢する客は、いるだろう。

「それにしても」

木俣氏が話題を変える。

「△△(萌花の名字)君は、よく三ツ色さんのことを話してますよ。

店以外でも、よくお会いになるんでしょ」

何か、誤解を生む言い方ですね、木俣さん。

確かに、よく話はするし、昼メシを食ったりもするけれど。

しおかぜ町から2023/04/26パン屋と蕎麦屋とカツ丼と - しおかぜ町から

「あはは、そうですね」

木俣さんが笑う。

「まあ、彼女をよろしく頼みます」

いえいえ、それは私のセリフではないですか。

「萌花は、ワインの専門家になれそうですか?」

恐る恐る尋ねてみた。

彼女が、芸能界入りをやめた理由、

それは私の意見である。

しおかぜ町2023/03/24花便り、ここで咲く - しおかぜ町から

その萌花は、今、ソムリエーヌを目指している。

「やってくれると、期待しています」

木俣氏は、前方を見つめたまま頷いた。

運転してるんだから、当たり前か。

 

わが家の前まで、送ってくれた。

必ず、お店に行きます。

約束して、紺色のBMWを見送った。

 

夕方、萌花からLINEが来た。

「木俣さんと会ったの?」

「偶然だけどね」と返す。

「私のことも話した、って聞いたけど、

木俣さん、内容教えてくれないの」

「でしょうね」

「えー! 教えてよ」

「たいしたことじゃない。

それより、もうすぐ開店だろうが。

仕事しろ、仕事」

返事は、

”ぷんすか”と、少女が怒っているスタンプだった。