しおかぜ町は、海のそばである。
分かりやすい町名で、想像力なんか必要ない。
イメージ通りの場所である。
この町にも春が来た。
庭や空き地に、花が目立ち始めた。
ほっとする。
今年の冬は、寒さが厳しかったからだろう。
「好きな季節は冬」
昔の私は、そんなことを言っていた。
今では、春、さらに、夏の暑さも悪くない。
そんなことをヌケヌケ喋っている。
二十代の頃は、体が熱を持っていて、
寒さに強かっただけ、なのかもしれない。
「寒さが苦手になった?
コココ、それはまだ元気だってことだよ。
アタシみたいな歳になってごらんよ。
もう、暑いのも寒いのも、あまり感じなくなるから」
ご近所のクニエダさん。九十五歳である。
それでも、やはり春は楽しみだそうだ。
「あと五回は桜を見たいからなあ」
今朝、会ったときに言っていた。腰を伸ばして言っていた。