しおかぜ町もお彼岸である。
当たり前か。日本中がそうである。
カノンのお墓参り。
思えば、萌花のフランス行きの前に
始めてふたりで来たのだった。
あの日は暑かったが、
今日は風が強くて寒い。
ときおり雨も降る。
それでも、かなり長い時間お参りしていた。
帰る頃には、すっかり体が冷えた。
「どこか寄るか」と尋ねると、
「いい、寒いから早く帰ろ」と萌花が言う。
それでぼた餅を買って帰ってきた。
仏壇に供える。
春は「ぼた餅」、秋は「おはぎ」。
粋なものである。形状やあんの違いもあるのだが
季節の花の名前に由来しているという。
萌花のジェットラグ(時差ぼけ)も解消され、
明日から仕事探しを本格的に始めると言う。
実は、私はそんなに心配していない。
接客には慣れているし、ワインや料理の知識も豊富だ。
それに(私が言うのも何だが)華やかな雰囲気で目立つ。
仕事は見つかると思う。
「とりあえず、明日、〇〇シェフと木俣さんに会うことになってるから」
ふたりは渡仏前に萌花が勤めていたレストランの、シェフとソムリエだ。
春分は、スタートラインでもある。
私たちの人生も、動き出した。