しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/08/07墓参り

お墓参りである。

亡くなった妻の墓前に、

(どう説明していいのかわからないが)

若い女性を伴っての墓参である。

もしかすると、なかなかの場面なのかもしれないが

私は冷静だった。

カノン。わかってくれる。

浮ついた気持ちは、全くない。

横にいる萌花も同じだろう。

ただ、彼女は緊張していた。

 

お花を買っていく。

私が、これにしようと言ったのを、

数分考えて(花屋さんが困っていた)、

二倍くらい豪華なものにした。

そんなに置けるかな。

正直言って、大きな墓ではないのだ。

 

「せめて、今日はこれくらいさせて」

 

そんなことを言ったくせに、

墓地の入り口で、萌花が固まる。

カノンの墓は、少し奥まった場所だが、

動かなくなった。

緊張が伝わってくる。

供えるはずの花を抱いたまま、

立ち尽くす萌花。

 

気持ちがわかるだけに、

せかすことができない。

花を持った手に、私の手を重ねる。

「三ツ色さん、今はだめ、ごめん」

もしかすると、すでにカノンと話しているのか。

そう思った。

 

私は、先に、亡き妻の墓前に立った。

穏やかな気持ちだ。

なあ、君もわかるだろ。

彼女、必死なんだよ。

君がいなくなって、

もがきながら生きるオヤジに、

寄り添おうとしてくれてんだよ。

なぜ、

私なんかに好意を持ってくれるのかはわからないけど、

彼女、君のことも大切に考えてるんだよ。

リスペクトしてるみたいだよ。

彼女、今度、フランスに行くんだ。

彼女の将来にとって、たいせつなことなんだ。

どうか、応援してやってくれないか。

 

気がつくと、萌花が横にいた。

いつの間に。

よかった。

花を供える。

活けられる花は活け、あとは墓石に置く。

 

白いワンピースを着ていた萌花だが、

汚れることを気にせずひざをつく。

手を合わせて、目を閉じる。

私は横に立つ。

真夏の陽射し。

気になって、萌花に日傘をさしかける。

彼女は深く頭を下げる。傘など気にしていない。

ほんとうに、カノンと話しているのだ。

そう信じた。

10分、20分。

萌花は動かない。

私の首が、日に焼かれる。

しかし、耐えよう。

彼女らは、私のための時間を共有しているのだ。

 

およそ一時間後、萌花が立ち上がった。

長い対話だった。

蕾だった百合の花が、

少し開いた気がしたのは

まったく私のイメージだったのかもしれない。

 


よく思い出せないが、

そんなイメージだったのだ。

 

「三ツ色さん、今日はありがとう」

萌花が言った。

「私、フランスに行ける」

そうしろ。カノンが言ったんだな。

 

「でも、三ツ色さんに会いたくなったら会う。

そばにいたくなったら、そうする。

そう思えるから、フランスでがんばる。

ああ、また、私に告白させてる。

でも、これはカノンさんのお墓の前だから、

もう公認だね」

 

カノンが苦笑している。そう思った。

ありがとう。カノン。そして、萌花。

首の日焼けだけが、痛かった。