しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/09/07 流血、その後

【承前】

しおかぜ町から2023/09/06掃除機で殴られる日が来るなんて - しおかぜ町から

 

ドアが開いた。

萌花。

血まみれの私を見る。目を見開く。

ダッシュして、私に飛びついた。

オヤジから引き離す。

なんか、すごい力だった。「三ツ色さーん」と言う。

萌花の登場に、オヤジが戸惑っている。

掃除機を置いてくれた。

そんなもので殴るなよ、まったく。

掃除に使えよ、それは、クソオヤジ。

萌花が、優理に「タオル、貸して」と言っている。

優理が泣きながら、ピンクのタオルを持ってきた。

それを萌花が、額に捲いてくれた。

「病院、行かなきゃ。三ツ色さん」

「いや、すごい出血にみえても、たいしたことは」

「それでも、ちゃんと診てもらわなきゃ」

 

萌花に付き添われて、部屋を出る。

「彼女、どうするんだ? 親子だけにしといていいのか?」

萌花が一瞬、考える。

ドアを開けて、怒鳴った。

え!そんな声。始めて聞いたかも。

「優理、あんたも来い!」

スマホをつかんだ優理が飛び出してくる。

「お父さんは?」

「中で、ぼうっとしてます」

 

近くに外科医院があった。

受け付け終了間際だったが、

私の様子を見て治療してくれた。

2針縫った。きつく包帯を巻かれた。

目立たないが、傷は残るかも。

念のため、脳波の検査。

幸い、異常はなかった。

 

明日また、包帯を替えに来なさい。

血で汚れたシャツを着替えて、病院を出た。

治療の間に、優理が買いに行ってくれたシャツ。

前面には『NO MATTER』というプリント。

まあ、いいけどね。

歩きながら話す。

「やれやれ」

「私、フランスどころじゃない」

「よせよ。萌花がそう言うのが心配だったんだ。だいじょうぶだから」

「うん、ごめん」

「それにしても」

私は優理を見た。

「どうする? 部屋に戻るか?」

「戻れないよね」

萌花が代わりに答える。

そうだよなあ。

優理が少し考えて、顔をあげた。

「でも、これ以上、お二人には迷惑かけられないし」

「迷惑、なんて」

私が言うと、優理が首を振る。

「いえ、こんなこと、父は、逮捕されても当然じゃないですか」

「警察沙汰にするつもりはないよ。優理ちゃん」

「それは…… 

 お二人が親切だから……。

 私、父と話します。

 口にするのも、おぞましいこともあるけど、

 そんなこと、言ってられない。

 父がわからないなら、私が警察に連絡します」

「うーん」

私は萌花を見る。

萌花も私を見た。よく事情がわかっているのは彼女だ。

「私がいっしょに行く。

 三ツ色さんを見ると、また、お父さん、興奮するから、

 私が行って、話してくる。

 三ツ色さんに、怪我をさせて、

 あの、その……

 私、悔しい。

 だから、絶対に話をつけてくる。

 優理の将来のために、がんばってくる」

 

近くで待つよ。私が言う。

だめだよ、帰って休んで。萌花が言う。

カノンさんに言い訳できないよ。

萌花が唇を噛む。

それでも、あのオヤジがキレたら困る。

説得して、私は近くの公園で待つことにした。

何かあったら、すぐに連絡しろ。

女性が二人、部屋に戻って行った。

 

※この項つづく