しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/09/06掃除機で殴られる日が来るなんて

優理。

父親から逃れて、独り暮らし。

しおかぜ町から2023/05/28ダービーの日に - しおかぜ町から

生活は苦しい。昼間は事務、夜は交通誘導など。

萌花が相談に乗っている。

私は、クソオヤジがやって来たときのガードマン。

その優理からのSOS。

父親が居場所を突き止めて、

乗り込んで来た。

「今、ドアを叩いてるんです」

ほぼ同時に萌花からの連絡。

「三ツ色さん、行ってあげて。

乱暴されるかもしれない。私も行くから」

部屋を飛び出す。優理のアパートまで歩いて20分くらい。

そこを走る。炎天下の道。走りながら、電話する。

「部屋に入れるなよ」

「無理です。大声出すし。近所迷惑だし」

「すぐに行くから」

全力疾走。いつ以来だろう。

着いた。

外にはいない。もう部屋の中か。

中の様子を窺う。

男性の声。怒鳴ったりはしていないが、逆に不気味だ。

優理の声。涙声。

飛び込んでいいものか。

ええい! ドアを開けた。

仁王立ちの男。

振り返った。目が合う。

「なんだ、あんた」

「いや、優理さんの」

「なんだ。お前が娘をそそのかしたんだな。

娘に何をした!」

いや、それはこちらが言いたいこと……

いきなり胸ぐらを捕まれて、ドアにぶつけられた。アパートのドア。鉄製である。

押し返す。もみ合いながら奥へ。優理の部屋。

力の強いオヤジだ。聞いてた話と違うんだが。

お父さん、やめて。優理が叫んでいるが、オヤジはぶち切れた。

なるほど、こういう父親だったのか。

冷静に分析している場合ではない。

オヤジが、置いてあった掃除機をつかんで殴りかかってきた。

もう、無茶苦茶である。

吸い込み口の固い部分が、私の額に当たる。嫌な感じ。

温かいものが垂れる。触ると赤かった。

ボタボタと血が落ちる。

優理の悲鳴。

さすがに私もぶち切れた。

これくらいの流血でプロレスラーはひるまない。

私はレスラーではないが、彼らをリスペクトしている。

反撃だ。オヤジが、まだ掃除機を構えている。

だが、待てよ。

萌花の顔が浮かぶ。

私が反撃したら、正当防衛を主張しても、警察沙汰になる。

萌花に、迷惑をかける。フランス行き直前なのだ。

それに、優理も困るだろう。

私は、オヤジに近付いた。

少しふらついた。

部屋の床が、私の血で汚れる。

掃除しなきゃ。こんな時にも、のんきなことを考える。

オヤジが警戒する。

掃除機で私のボディを押す。

「お父さん、やめて。三ツ色さんは……」

優理の声。

「お父さん、あのですね。落ちついて……」

とにかく、その掃除機を離してくださいな。

言いかけたときに、扉が開いた。

 

※この項つづく