久しぶりに外食らしい外食をした。
少しばかりの贅沢。
自分たちに許そう。
彼女がそう言った。
私たちの記念日になる日である。
それでも、ランチの時間帯を選んだ萌花が愛おしい。
イタリアン。
彼女が働いていたのはフレンチレストランだったが、この日選んだのはイタリアンレストランだった。
理由を聞くと「パスタ、食べたいから」という返事だった。
他にも理由があったのかもしれない。
それはわからない。
「12時に予約している三ツ色です」
彼女が言う。
言った後で私を振り向いて「えへ」と笑う。
席に案内される。
飲み物のオーダー。
ささやかな2人の乾杯。
「それでは、あらためて」
おじさんみたいなことを言うので笑ってしまう。
「何よ、おかしい?」
「ごめん、ごめん。あらためて」
グラスを合わせる。私はひと息で飲んでしまった。萌花がそれを笑う。
「三ツ色さん、昼から酔っ払ったらいやだよ」
「ところでさ」
「なに?」
「別にいいんだけど、まだ『三ツ色さん』て呼ぶのかな?」
萌花も『三ツ色』になったのだ。
今日。
書類を提出した。
婚姻届である。
昨日、2人で記入した。
再婚の私は、前日、ご両親に挨拶に行った。
緊張した。 私は、萌花とよりご両親との方が、年齢が近いのだ。
「娘が望んでいるのですから、よろしくお願いします」
感謝しかない。
お互いに頭を下げた。
「でも、なんて呼べばいい?」
特に希望はないし、確かに『三ツ色さん』と呼ばれるのに慣れてはいる。
「まあいいか、自然にまかせようか」
食事は満足なものだった。
ランチだったし、そんなにお酒も飲まなかった。
ワインを一杯と途中からビールにきりかえた。それも一杯。
少し遠かったが、歩いて帰った。
なぜか何も話さなかった。
一時間ばかり並んで歩いた。
それだけのことが、とても嬉しかった。
〔了〕
およそ、一年。
これまで、どうもありがとうございました。