しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/08/06お墓参り!?

承前

しおかぜ町から2023/08/05ギター弾いてみた - しおかぜ町から

 

川のそばに来た。

ルーメン事変のあとに来た場所。

手を繋いだ場所。

 

「ねえ」

萌花が言う。

あいかわらず、大事そうに持っている。

私のギターケース。

泣いたギターが、入っている。

「どうした」

「怒らない?」

そう言われても内容次第だ。

思ったけれど「怒らない」と答えた。

怒らない覚悟をした。

三十秒ぐらい間があった。

そんなに言いにくいことか。

 

「お墓参りに行きたい」

予想外だった。戸惑う。

「あ、ああ?」

間抜けな対応。

「お墓って……」

「奥さまの、カノンさんの。行かないの?」

いや、行くけど。行くつもりだけど。お盆に。

「お盆はね、私、両親と田舎に行かないと」

高齢の祖父母に会って、フランス行きを伝える。

「だから、その前に、カノンさんのお墓にお参りさせて、三ツ色さん」

でないと、フランスに行けない。そう言う。

そう言って、涙を浮かべている。

君のワイン修行に、

亡き妻の墓参が、そんなに……

私が鈍感なのだろうか。

「さっきの練習、見てて思った。

あの、スティル……何だっけ」

『スティル・ゴット・ザ・ブルース』だ。

「そう、それ。あれ聞いたとき、わかった。

ああ、カノンさんが、まだ三ツ色さんの中にいるんだって」

萌花の笑っていない目。あのときだ。

萌花を見ると、

私を睨んでいた。

目が笑っていない。

確かに、カノンを思って弾いた。それは否定できない。

私は、萌花を傷つけたのだろうか。

「だからね」と萌花が言う。

私、カノンさんと会話しないといけないの。

カノンさんに文句言ってもらわないといけないの。

それで、三ツ色さんのそばにいてもいいって、

許してもらわないといけないの。

その上で、フランスに行ってきますって。

カノンさんに許してもらわないと、

私、不安で不安で、悲しくて、たぶん行けないよ。

 

それだけ言って、萌花はしばらく黙った。

顔が赤くなっている。

私は、

いい歳をして、気の利いたことが言えない。

おっさんはダメダメだ。

彼女が持っていた、ギターケースを持つ。

「重かっただろ」

「うん、重いギターだった」

萌花が、涙を拭いた。

 

気を取り直したように言う。

「もう、また私に告白させて」

萌花が私の腕を叩く。きつく叩いた。

痛かったが我慢した。

 

それから、

墓に行く約束をして、川を見た。

鴨の親子が泳いでいた。