「どうして私がいなくなってから
楽しそうなことするの?」
バンドの話。萌花の文句。
「秋のグルメフェスティバルのイベントだよ。
仕方ないじゃないか」
ボーカル不在のオジさんバンド。
「私がやりたかった。グループのセンター」
いや、アイドルグループじゃないんだから。
そりゃあ、彼女がいると華やかだろうが。
「今からでもいいよ。
フランスに行くのやめろ。
日本にいて、むさ苦しいグループの紅一点になれ。
そう言ってくれてもいいんだよ」
おいおい、フランス、行きたくないの?
それにオジサンたちの余興と、
ソムリエンヌとしてのキミの将来とでは、価値がちがいすぎる。
「じゃあ、じゃあ、せめて練習。
練習は見に行ってもいいでしょ?
私だって、三ツ色さんのギター、聞きたいよ」
それはいいけど、萌花。フランス語の勉強もあるだろ?
彼女は、先日からロンバードにフランス語会話を習っている。
しおかぜ町から2023/07/12フランス語ができる人 - しおかぜ町から
「時間はやりくりする。絶対に行く。手伝うことあったら手伝う」
ありがとう。
だけど、宗介さんや、ウチナンチュの内名さんはどう思うだろう。
変に勘ぐられやしないか。
ましてや、練習場所を提供してくださる木之内先生は……。
しおかぜ町から2023/07/20バンド結成からのボーカル不在 - しおかぜ町から
「平気だよ。私、どう思われてもいいもーん。
三ツ色さんは、いや?」
とんでもございません。
ただ、いいおっさんが調子に乗って、
若い女の子連れて来て、みたいな。
「その通りだからいいやん」
はい、ぐうの音も出ません。
「三ツ色さん、調子に乗っていいの。
だって、それだけのことしてるんだから。
みんなの相談に乗って、走り回って。
それに……」
萌花が、間を置く。
てへへ、と笑ってから続けた。
「私の人生を、2回決めた。2回も、だよ」
アイドルをあきらめたこと。
フランス行きを決めたこと。
その2回。
「おまけに、私に告白させといて」
ルーメン事変のときだ。
いや、ごめん。それはごめん。
しおかぜ町から2023/06/22ルーメンと萌花 - しおかぜ町から
「だから、調子に乗っていいの。
私が許す!」
萌花に許されたのなら、いいか。
この夏、三ツ色は調子に乗らせてもらいます。
「まだ名前のないバンド・ボーカル不在」の初顔合わせは
数日後に迫っている。