しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/07/12フランス語ができる人

萌花がフランス語をブラッシュアップしたいと言う。

当然だろう。秋には、単身で暮らし始める。レストランで働き、ワインについて学ぶ。

今までは独学だった。スピーキングやリスニングは、もっぱら木俣さんとシェフに頼っている。

「フランス人の先生がいい」

もっともだと思うが、私も知り合いはいない。

「客に、フランス人はいないのか」

フレンチレストランじゃないか。

「いらっしゃる。けど、お客さまに頼めないよ」

そうかもしれない。

浮かんだのはロンバードだ。

語学講師である。仏語の講師を知っているかもしれない。

「聞いてみるよ」

「やったー! さすが」

「まだ、わからないよ」

 

いつものタリー◯。

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やってきた。

アブドーラ小林のプロレスTシャツを着ている。

まあ、いいけどな。

事情を話すと、ロンバードが笑う。ニヤリ。やな感じ。

「フランス語なら、ボクができるよ。Oui, je peux」

「えぇ、だって、キミは英語の先生じゃないか」

「ミツイロ。カナダのパブリック言語は英語とフランス語だよ。

両方話せる人、けっこういる」

「そうかも知らないけどさ」

大丈夫なのか、と言うのはさすがに失礼か。

語学専門学校と私学(キンパッつぁんの勤務校だ)で教えている。

ただ、英語だけど。

「その彼女は、フランス語会話に慣れたいんだろう?

それなら、ふたりで楽しくおしゃべりすればいいじゃないか」

本当にそうなのか?

とりあえず、萌花に聞いてみた。

電話。すぐに出てくれた。

「うん、かまわないよ。三ツ色さんのお友達だし。

信用する」

「まあ、一度やってみて、気に入らなかったらすぐに俺に言え」

「わかった。ねえ、どんな先生? 今、そこにいらっしゃるんでしょ?」

「ちょっと、待って」

テレビ通話に切り替える。

萌花が画面に現れた。自室らしい。

「ロンバードっていう、こんなやつ」

スマートフォンを渡す。

「ハロー」

「初めまして、△△萌花と申します」

「うっぷ」

ロンバードが照れる。この野郎。

来週、私も含めて三人で会うことになった。

電話を切ったあと、

なぜかロンバードが私をにらむ。

「萌花さん、魅力的」

そうですか、それはよかった。

だけど、ロンバードさん、あなた、新婚ですからね。

しおかぜ町から2023/04/05 - しおかぜ町から

「なに? 彼女、三ツ色さんの大切な人?」

少し前なら、「そんなのじゃない」と答えただろう。

だが、今では、答えにくい質問だった。

あの「ルーメン事変」からだ。

しおかぜ町から2023/06/22ルーメンと萌花 - しおかぜ町から

「そうだよ」

開き直った。間違いではない。

恋だの愛だのは別にして、

おたがいに意識していることは確かだ。

「おお、そうですか」

ロンバードが言う。

嘆くのかと思ったら、そうではなかった。

「それならば、私も真剣だね。

まかせといて。きっと、彼女のフランス語、上手にしてあげるよ」

いいやつだな、カナダ人。

今度、酒でも飲みに行こうか。

 

こうして、萌花の留学準備が、ひとつ進んだ。