しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/12/02モヤモヤドタバタからの久々

しおかぜ町だって寒い。

急に気温が下がり、体に堪える。

慌ててダウンジャケットを引っ張り出した。

ビデオ通話。向こうはフランス。時差がある。

萌花とルーメン。ツーショット。

「おじゃましまーす」

占い師がワイングラスを掲げている。

さぞかしフランスで飲むワインはうまいだろうよ。

こちらは朝である。

黒崎樹里亜さんのことを話す。

こういうことは早めに話しておかなくては。

あとで耳に入って、機嫌を害されては困る。

「ふーん」

萌花は余裕の表情である。よかった。

「頼まれたからには、合格させてあげなくちゃ」

「そうなんだよ。責任が重い」

「まさ…… 三ツ色さんなら、大丈夫だよ」

「センセー、センセー!」

ルーメンが割って入る。

「萌花ちゃんさ、夜中に『まさみさ~ん』とか言ってもだえてるよ」

お前、酔っぱらってるだろう! 

「嘘だよ、嘘、もう、ルーメン!」

「嘘じゃないわよ。さっきの、黒崎樹里亜ちゃん?

この子、平気な顔してるけど、めっちゃヤキモチ焼いてるよ」

ルーメン、お前、かき回すなよ。

「そんなことないもん」

萌花がふくれる。

「まさみ…… 三ツ色さんはだいじょうぶだもん」

だから、そんな浮いた話じゃないって。

だいたい、黒崎は高校生。これから大学受験しようって年齢だぞ。

もし、いたなら、娘のような歳じゃないか。

「だよね」

「ふ~ん」

ルーメンがニヤニヤしている。

からかう材料ができた。そういう顔だ。

まったく。

「萌花」

「はい」

「ルーメンは面白がってるけど。

もし心配なら、いつでも帰って来ていいぞ。

もう、そいつ。そこに置き去りにして」

「えー」

ルーメンが目を丸くする。

「センセーが、めっちゃ大胆なこと言ってるよ、萌花ちゃん」

「てへへ、どう? ルーメン」

萌花の勝ち誇った顔。

「はいはい、まいりましたわよ、あはは」

ワイングラスを掲げて、さすらいの占い師が笑う。

「今夜も『まさみさ~ん』ってもだえ声、聞いて寝ます」

「嘘だよ、嘘!」

いや、それ、なんて言うか。

だいたい、こっちは今、朝早いんだからな。

変な話題に持っていくなよ。

そんなドタバタのあと、トーストにマーマレードの朝食をすませて、

昔の職場に電話した。

以前、そちらで勤務してました三ツ色と申します。

「あら、ひさしぶり」

長く事務室で働いている岡本さんだった。

「うわ、ご無沙汰してます。おげんきですか」

懐かしい気分。

岡本女史には、新人時代からお世話になった。私が、まだダメダメだった頃だ。

少し近況を話し、気心の知れた坂田先生に取り次いでもらう。

黒崎樹里亜のために、最近の入試事情を聞きたかった。

もちろん、キンパッつぁんに頼んで資料を集めてもらうことはできたが、

私自身が以前の職場を、見たい気持ちがあった。

「おう、三ツ色、久しぶり」

「ごぶさた、さっそくだけど、実は」

事情を話すと、一般的なことだったらいいよ、と承諾してくれた。

今日の午後なら、2時間ほど時間がとれるぜ。

そう言ってくれたので、

私は久しぶりに、昔の勤務先を訪ねることにした。