久しぶりに会った坂田先生は、
ずいぶん貫禄が出ていた。
「オレ、太ったかな?」
疑問文! 答えるまでもない。
「三ツ色は変わらないなあ」
はい。あいかわらず威厳も貫禄もありません。
黒崎樹里亜のことを話す。
「ご苦労なことだな。また、めんどくさいこと」
坂田先生が苦笑する。
「舞台芸術科とか演劇科とか、オレも詳しくないからな。
資料だけは進路担当に頼んで、集めてもらった」
かなりぶ厚い書類入れを受け取る。
「演技はともかく、その子の学力はどうなんだい」
教師に睨まれていた彼女のことだ。成績はよくないだろうと思っていた。
ところがキンパッつぁんの話だと、トップクラスではないものの
上位グループに食い込んでいる。意地でも点数はとる、という態度なのだそうだ。
やるじゃないか、樹里亜くん。
「悪くはないんです」
個人情報なので、慎重にことばを選ぶ。
坂田先生も察してくれた。
「じゃあ、実技次第だろうな。
資料の中に、過去の実技課題や合格体験記があるから、
見ておくといい」
あらためて礼を言う。
「ちょっと、校内を見ていくか? だいぶ改装してきれいになったぜ」
お言葉に甘えて、校内見学をする。なるほど、ずいぶん変わっていた。
そのせいか、思ったより懐かしいという気持ちにはならなかった。
「なんか、もう別の学校みたいですよ」
「そうか、そうかも知れんな」
「そういやあ……」
ルーメンのことを話す。
今朝、オンラインで会話したばかりだ。
「おお、〇〇(ルーメンの本名)かあ。苦労させられたよなあ。
それにしても、なんであいつとオンライン会議してるんだ」
なりゆきで萌花のことも白状した。
「そうか。奥さん亡くなって、だいぶ経つものな」
「はい」
「ま、うまくやれや」
坂田先生は、校門まで見送ってくれた。
それを事務室から見ていた岡本女史も出て来て、手をふってくれる。
私は、何度も振り返って頭を下げた。
さあ、帰って資料を検討するとしようか。