しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/12/03昔の職場

久しぶりに会った坂田先生は、

ずいぶん貫禄が出ていた。

「オレ、太ったかな?」

疑問文! 答えるまでもない。

「三ツ色は変わらないなあ」

はい。あいかわらず威厳も貫禄もありません。

黒崎樹里亜のことを話す。

「ご苦労なことだな。また、めんどくさいこと」

坂田先生が苦笑する。

舞台芸術科とか演劇科とか、オレも詳しくないからな。

資料だけは進路担当に頼んで、集めてもらった」

かなりぶ厚い書類入れを受け取る。

「演技はともかく、その子の学力はどうなんだい」

教師に睨まれていた彼女のことだ。成績はよくないだろうと思っていた。

ところがキンパッつぁんの話だと、トップクラスではないものの

上位グループに食い込んでいる。意地でも点数はとる、という態度なのだそうだ。

やるじゃないか、樹里亜くん。

「悪くはないんです」

個人情報なので、慎重にことばを選ぶ。

坂田先生も察してくれた。

「じゃあ、実技次第だろうな。

資料の中に、過去の実技課題や合格体験記があるから、

見ておくといい」

あらためて礼を言う。

「ちょっと、校内を見ていくか? だいぶ改装してきれいになったぜ」

お言葉に甘えて、校内見学をする。なるほど、ずいぶん変わっていた。

そのせいか、思ったより懐かしいという気持ちにはならなかった。

「なんか、もう別の学校みたいですよ」

「そうか、そうかも知れんな」

「そういやあ……」

ルーメンのことを話す。

今朝、オンラインで会話したばかりだ。

「おお、〇〇(ルーメンの本名)かあ。苦労させられたよなあ。

それにしても、なんであいつとオンライン会議してるんだ」

なりゆきで萌花のことも白状した。

「そうか。奥さん亡くなって、だいぶ経つものな」

「はい」

「ま、うまくやれや」

坂田先生は、校門まで見送ってくれた。

それを事務室から見ていた岡本女史も出て来て、手をふってくれる。

私は、何度も振り返って頭を下げた。

 

さあ、帰って資料を検討するとしようか。