しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2024/01/17萌花と樹里亜、遭遇

萌花のキャリアと同様、

黒崎樹里亜さんの受験も気がかりだ。

もう直前である。

ここにきて、私がこんな状態だ。

動くことは禁じられている。

警察の事情聴取もある。

 

事故に関しては、圧倒的に相手方の過失である。

向こうも認めているらしい。

ややこしい相手でなくてよかった。

それでも、私の調書も取らないといけないそうだ。

病室でも可能らしいのだが、返事はしていない。

とはいえ、警察署に出向くのも億劫だ。

どうしよう。

 

萌花が、シェフや木俣さんに挨拶に行ったあと

独りで思いにふけっていたら、見舞客があった。

黒崎樹里亜さんと高校生軍団である。

恐縮。

「いや、貴重な時間を。すまない」

すでに、受験直前である。

私が穴を開けた黒崎さんの演技指導は、

キンパッつぁんが補ってくれたようだ。

もちろん、彼なら大丈夫だ。

「こんな状態の俺が言うのもなんだけど、

実技に関しては、君は自信を持っていいよ」

ほんとうですか、ありがとうございます。

黒崎さんが笑顔を見せる。

彼女の1年前を知る人たちには

信じられないようないい笑顔だ。

目立たないとはいえ、顔についた傷の代償かもしれないのだが。

「先生のためにも、絶対に合格してきますから」

うれしくて、全身が痛くなる。

すごいぞ、黒崎樹里亜。

もう「さん」や「くん」を付けたくない気分。

 

そして、その黒崎樹里亜&高校生軍団のいるところに

萌花が帰って来たものだから、大盛り上がりになってしまった。

「ええ! 三ツ色先生の彼女さんだ!」

病室だから静かにしようね。

しかも、俺、重傷だからね。