萌花のキャリアと同様、
黒崎樹里亜さんの受験も気がかりだ。
もう直前である。
ここにきて、私がこんな状態だ。
動くことは禁じられている。
警察の事情聴取もある。
事故に関しては、圧倒的に相手方の過失である。
向こうも認めているらしい。
ややこしい相手でなくてよかった。
それでも、私の調書も取らないといけないそうだ。
病室でも可能らしいのだが、返事はしていない。
とはいえ、警察署に出向くのも億劫だ。
どうしよう。
萌花が、シェフや木俣さんに挨拶に行ったあと
独りで思いにふけっていたら、見舞客があった。
黒崎樹里亜さんと高校生軍団である。
恐縮。
「いや、貴重な時間を。すまない」
すでに、受験直前である。
私が穴を開けた黒崎さんの演技指導は、
キンパッつぁんが補ってくれたようだ。
もちろん、彼なら大丈夫だ。
「こんな状態の俺が言うのもなんだけど、
実技に関しては、君は自信を持っていいよ」
ほんとうですか、ありがとうございます。
黒崎さんが笑顔を見せる。
彼女の1年前を知る人たちには
信じられないようないい笑顔だ。
目立たないとはいえ、顔についた傷の代償かもしれないのだが。
「先生のためにも、絶対に合格してきますから」
うれしくて、全身が痛くなる。
すごいぞ、黒崎樹里亜。
もう「さん」や「くん」を付けたくない気分。
そして、その黒崎樹里亜&高校生軍団のいるところに
萌花が帰って来たものだから、大盛り上がりになってしまった。
「ええ! 三ツ色先生の彼女さんだ!」
病室だから静かにしようね。
しかも、俺、重傷だからね。