しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2024/01/14萌花ふたたび

ありがたいことだが、一晩中そばにいる勢いだった。

そんな萌花だが、彼女も疲れている。

なにせ急遽、地球を半周してきたのだ。

頼むから、君も休んでくれ。

そう言って、帰らせた。

ご両親も来られていて、ますます申し訳ない気持ち。

点滴にいりいろなモノが入っているのだろう。

すぐに眠くなる。しかも深く眠れる。

これもありがたい。

 

目覚めると、もう彼女がいた。

落ち着いて話す。

私の怪我のこともあるが、彼女のキャリアにも重大な事態だ。

肝いりのフランス修行を、中断して帰国したのだ。

「今日、シェフと木俣さんにはご挨拶に行ってくる」

それはそうだ。礼儀というものだ。

彼女のワイン留学をお膳立てしてくださったお二人だ。

「それで、なんだけど」

萌花の決意。

そう言うだろうと思っていた。

そして、私が賛成しないことも彼女はわかっている。

「だめだ。俺が、それを喜ぶと思ってるのか」

文字にするとキツイが、私も弱っている。それほど迫力はない。

「もう、100%、三ツ色さんが反対してくれると思ってたよ。ありがとう。

でもね、だからって、こんなとき、そばにいないなんて私の選択肢にない。

もし、私のこの気持ちをわかってくれない人がいたら、もう絶交する。

今、今、私が、あなたのそばにいないで、いついるの」

『あなた』って言ってくれた。

妙なところで私は感動した。

しばらく噛みしめていたが、それでも現実は現実だ。

「だけど、シェフや木俣さんにはほんとうに……」

「だよね。ほんとうに不義理することになる。ごめんね、三ツ色さん。

私、ソムリエンヌの資格どころか、仕事もなくしちゃう。

でも、バイトしてでも、ファーストフードでアルバイトしてもいいし。

アタシ一人くらい、生きて行けるよ」

萌花、一人じゃないだろう。すまないな。

「一人じゃないって言ってくれるんだ。そっか。

もう百人力だよ。三ツ色さん」

行ってくるよ。謝ってくるよ。

私の病室から恩人のレストランに、萌花は出かけて行った。