ありがたいことだが、一晩中そばにいる勢いだった。
そんな萌花だが、彼女も疲れている。
なにせ急遽、地球を半周してきたのだ。
頼むから、君も休んでくれ。
そう言って、帰らせた。
ご両親も来られていて、ますます申し訳ない気持ち。
点滴にいりいろなモノが入っているのだろう。
すぐに眠くなる。しかも深く眠れる。
これもありがたい。
目覚めると、もう彼女がいた。
落ち着いて話す。
私の怪我のこともあるが、彼女のキャリアにも重大な事態だ。
肝いりのフランス修行を、中断して帰国したのだ。
「今日、シェフと木俣さんにはご挨拶に行ってくる」
それはそうだ。礼儀というものだ。
彼女のワイン留学をお膳立てしてくださったお二人だ。
「それで、なんだけど」
萌花の決意。
そう言うだろうと思っていた。
そして、私が賛成しないことも彼女はわかっている。
「だめだ。俺が、それを喜ぶと思ってるのか」
文字にするとキツイが、私も弱っている。それほど迫力はない。
「もう、100%、三ツ色さんが反対してくれると思ってたよ。ありがとう。
でもね、だからって、こんなとき、そばにいないなんて私の選択肢にない。
もし、私のこの気持ちをわかってくれない人がいたら、もう絶交する。
今、今、私が、あなたのそばにいないで、いついるの」
『あなた』って言ってくれた。
妙なところで私は感動した。
しばらく噛みしめていたが、それでも現実は現実だ。
「だけど、シェフや木俣さんにはほんとうに……」
「だよね。ほんとうに不義理することになる。ごめんね、三ツ色さん。
私、ソムリエンヌの資格どころか、仕事もなくしちゃう。
でも、バイトしてでも、ファーストフードでアルバイトしてもいいし。
アタシ一人くらい、生きて行けるよ」
萌花、一人じゃないだろう。すまないな。
「一人じゃないって言ってくれるんだ。そっか。
もう百人力だよ。三ツ色さん」
行ってくるよ。謝ってくるよ。
私の病室から恩人のレストランに、萌花は出かけて行った。