しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2024/01/11大けが

地面に横たわって青空を見た記憶がある。

(あとで聞くと、数メートル吹っとんだそうだ)

次の記憶は(おそらく)病院の白い天井だった。

エヴァンゲリヲン』の見知らぬ天井みたいな感覚だ。

だが、それも一瞬だった。

すぐに眠ってしまった(もしくは気絶した)のだろう。

大けがだったわけだが、

そのときはわからなかった。

意識がなかったのは、

一瞬だったのかもしれないし

長い時間だったのかも知れない。

後者だと知ったのは、目覚めると彼女がいたからだった。

「もう、やだよ」

萌花が言う。

「三ツ色さんが怪我するのいやだよ」

フランスにいるはずじゃないか、萌花。

直行便で十二時間ほどかかる。

料金だって十数万だろう。

ご両親が報せて、急いで帰国したとのこと。

そんなに危なかったのか? 俺。

全身の打撲。ただ、骨格は丈夫なのか

右の鎖骨とあばら骨に一本、ひびが入った程度だそうだ。

心配なのは頭部。

事故直後は脳震盪をおこしていた。

道路にぶつけたのは確かだが。

「頭打って、脳波は異常ない言うんやけど。そんなん、わからへんやんか」

えらい関西弁やな、萌花。

「何、言うてんねん。こんな死ぬほど心配してんのに」

空港から駆けつけたと言う。全然眠っていないのでは。

「当たり前やんか。あたし」

萌花が声を詰まらせる。

「飛行機の中で、ずっとカノンさんにお願いしてた。

助けて、助けて、助けて、って」

カノンは亡くなった元妻だ。

ごめんな。

ワイン留学の途中で、地球を半周させてしまった。

「言ったでしょ。何かあったら帰って来る。

そばにいたくなったらそばにいるって」

しおかぜ町から2023/08/07墓参り - しおかぜ町から

そうだけど、やっぱりすまないよ。

「痛くはないの?」

よくわからない。全身が痛いようだし、痺れたようだし。

重傷じゃないか。

「そうだよ、もう」

萌花……

「どうしたらいいの」