しおかぜ町も成人の日である。
市のホールの前に、新成人が集まっていた。
気のせいかも知れないけど、人数少なめ。
少子化の影響なのか?
私の気のせいなら、いいのだが。
市民ホールは川沿いにある。
しばらく歩いていると、なんと、
キンパッつぁんと出くわす。
スーツでキメている。
彼の勤務校では、いつも顔を見ているが、
休日に、こんなところで。
「おやおや」
「あ、いつもお世話になってます」
「そのセリフ、一昨日も聞いたけど」
思わず苦笑い。黒崎樹里亜さんの、初レッスンのときだ。
「そうですけど、三ツ色さんも何してるんです?
まさか成人式じゃあるまいし」
私はただの散歩である。
「そのまま、お返しするよ。君も成人式と関係ないだろうが」
「ところが、そうでもないんですよ」
なんでも、晴れ着姿の写真をいっしょに撮りたい、
そんな卒業生がいるそうだ。
「おうおう、ジョージ君はモテるもんな」
「そんなんじゃないですけど。まあ、慕ってもらってありがたいですよ」
キンパッつぁんの浮いた話を、私は聞いているのだが、
それはまたいずれ。
キンパッつぁんと別れて、途中の有名なブーランジェリーでパンを買う。
チーズとワインを合わせれば、ホリデイのリッチな昼食だ。
外国映画みたいに、フランスパンの紙袋を抱えて歩く。
右側の川を眺めながら、ぶらぶら歩いた。
河口。海に出るところ。
左側に横断歩道がある。
実は道路が合流していて、戸惑う車も多い。
私は、信号を確認して横断しようとした。
まさか、年明けそうそうに
こんなことになるなんて。
左側から、ワーゲンが突っ込んできた。
ボンネットに頭をぶつけたのは覚えている。
そのとき、私が思ったのは
フランスにいる萌花のことと、
黒崎さんの受験のことだった。