しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/08/05ギター弾いてみた

バンドの初顔合せ。

練習場所、

『有澤学園』の校門前で待ち合わせ。

2023-07-20から1日間の記事一覧 - しおかぜ町から

キーボード担当の木之内先生の勤務先だが

宗介さんの息子、キンパッつぁんの勤務校でもある。

『私たち』が到着すると、すでに宗介さん、ウチナンチュの内名さん、

それに、キンパッつぁんまでが、約束の場所にいた。

『私たち』とは、宣言通り、萌花が付き添ってきたから。

彼女は、超ごきげんで、私のギターケースを抱えている。

「重いよ」と言ったが、絶対持つと主張した。

私がこき使っているように見えないか?

 

宗介さんと、ウチナンチュが戸惑っている。

「これはこれは……」

「おはようございまぁす。三ツ色のマネージャーでーす」

萌花の挨拶。とびっきりの笑顔付き。おいおい……

「それはそれは」

みんな本気にしちゃうだろ。

言い訳するのもめんどうなので、成り行きにまかせる。

ウチナンチュの内名さんとは、初対面だ。

「初めまして」

「初めまして、マネージャーさんがいはるんですね」

ほら、本気にする人がいた。

 

キンパッつぁんが、音楽レッスン室に案内してくれた。

稽古場に貸してくださる。ありがたい。

木之内先生が、準備をしていた。

生徒さんが手伝って、ドラムやアンプを運んでいる。

申し訳ないです、おやじたちの余興のために。

地域のために、がんばらないと。

 

男子高校生が、萌花を見て固まった。

はずかしそうに「おはようございます」と言う。

萌花の笑顔付きの「おはようございまぁす」が炸裂。

男子が、照れながら部屋をでていった。

そりゃあ、そうなるか。

彼が再び戻って来たとき、仲間が増えていた。

そんなケーブル、三人で運ばなくても平気だろ。

萌花をちらちら見る男子たち。

木之内先生が「ごくろうさん」と言って、追い出した。

名残惜しそうに出て行く。ごめん。

 

「それじゃあ、あらためて、よろしくお願いします」

宗介さんが、場をしきる。

言い出しっぺ。

自然とリーダーになった。

「木之内先生には、練習場所をお貸しいただき、感謝です」

全員が拍手。木之内先生が頭を下げる。

「私も学生の頃、ガールズバンド、やってたので」

「え!そうなんですか」

言ったのは、同僚のキンパッつぁんだ。

練習を見学するつもりで、残っていた。

「夏目先生、生徒に言わないでよ」

「別に、構わないじゃないですか」

「だめだめ、昔の写真見せろとか、言ってくるから」

「ボクが見たいですよ~」

それにしても、音楽の先生がバンドって、珍しくないですか?

音楽の先生は、クラシック系ではないの?

私の疑問に、木之内先生が答えてくださった。

「そうなの。だからね、大学時代は担当教官に睨まれた。

バンドから足を洗わないと、将来はないぞって。

だけど、好きなものは好きだから。仕方ないじゃない。

なんとか、教官の目を盗んで続けたのよ」

「カッコいいです」

萌花が反応している。

「好きなものは、しかたないですよね」

宗介さんが私を見る。にやにやしてる。

なんだよ。

「さて、学生時代にバリバリやってた三ツ色さん。

ちょっと、プロ並みの腕前を……」

「誰がそんなことを」

「いや、そんな雰囲気、醸し出してるよ」

ウチナンチュも頷いている。

え、私、醸し出してます?

 

ときどき、楽器の手入れはしていたが

本気で演奏するのは、あの時代以来だ。

【※追憶編1~8】

 

指が動くかな。「イモーション」はあるだろうか。

しおかぜ町から~追憶編2 - しおかぜ町から

「イモーション」……

連想して、

『スティル・ゴット・ザ・ブルース』の

イントロからギターソロを弾いてみる。

初日だ。

失敗しても笑っていられるし、

これから練習する曲は、

そんなに難しい曲ではない。

 

ギターは泣いてくれるだろうか。

思ったより、指は動いた。

体は、手は、指は、覚えているものだ。

ごまかした箇所もあるが、弾ける。

弾いているうちに、憎たらしい島田の顔が浮かんだ。

城間に具志堅太郎。

そしてカノン。短かったけれど、共に人生を歩いたカノン。

思いながら弾いた。

泣いてくれたかもしれない。

あのギターなのだ。

1分か2分だったと思うが、“あの頃”にタイムスリップした。

 

そう言うと、ちょっと格好つけすぎだが。

 

最後は、静かに終えた。

ポロロン。

 

拍手。

「いや、いや、いや」

「ちょっと、すごいなあ」

「心強いですよ」

みんなほめてくれた。

 

萌花を見ると、

私を睨んでいた。

目が笑っていない。

 

宗介さんのドラムも、かなりのものだった。

馬鹿にしたものではない。

ウチナンチュの内名さんも、堅実でうまい。

城間を思い出した。

沖縄出身者の特徴なのかしら。

木之内先生は、さすがに本職である。

 

日程と、演奏曲を打ち合わせる。

試しにいろいろ演奏してみたが、

みんな達者だ。

それなりの仕上がりにはなるだろう、

ボーカルはいないが。

三時間ほど、練習して解散した。

 

帰り、萌花と並んで歩く。

同じように、ギターケースを抱えてくれている。

ちがうのは、口数が少ない。

何か、怒らせてしまったか。

わからないので、しばらく黙っていた。

 

※この項つづく