承前
ふた月ほど前に、島田はそれまでいたバンドを抜けていた。
「方向性の違いや」
そう言っていたが、本当は人間関係だと、別の先輩が教えてくれた。
メンバーを探していた島田にとって、私は好都合だったのだろう。
同じ新入生で、城間茂という沖縄出身のベースを加えて、スタートした。
(今回、宗介さんから、ウチナンチュの内名さんを紹介されて
縁があるなと思ったのはこのためだ)
城間は痩せて口数が少なく、目立つタイプではなかった。
ストーンズのビル・ワイマンが好きで、ていねいな演奏をした。ミスがほとんどない。「ごまかしてるだけさあ」
褒められると照れる。
島田は関心がない、という顔をしていたものだ。
ドラムは、城間が具志堅太郎を連れてきた。
同郷の顔見知り。
具志堅はテニスサークルに入っていたが、掛け持ちでやると言った。
ドラムは高校から始めたという。
プレーは迫力があった。パワフル。汗を飛び散らせ、ひたすら叩く。
荒削りだが、個性的。
島田は具志堅の演奏を見て、よく笑っていた。
島田以外は一回生のメンバーだったが、彼の要求は厳しかった。
ミスには容赦がない。悪態をつき罵倒する。
そのくせ、自分のミスは認めようとしない。
怒って物を投げることもあった。ぶつけないように気を付けてはいたが。
具体的でない指摘もよくあった。
「なんか違うねん」
「イモーションが足らんねん」
どう対応するか、悩んだものだ。
とんだ専制君主だったが、私は島田のボーカルに魅了されていた。
大学生が歌うような選曲ではなかったし、ハードな曲もスローバラードもこなした。
挫折、失望、喪失、後悔、怒り。
「イモーション」があったのだろう。幾多の人生経験を感じさせるムード。
世間知らずが触れたことのない世界を、島田は歌いあげた。