しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から~追憶編1

私は中学二年生でギターを始め、高校では、そこそこの腕前になっていた。

学校にはフォークソング・クラブしかなかったが、

ハードロックを演奏して目立った。

「ブリザード」というバンドを結成し、文化祭で人気者になった。

他校のバンドと、市民会館で演奏会を開いたこともある。

棒付きキャンディーを咥えながらソロを弾いて大受けした。

そんな実績から、少しは自信があった。

京都の大学に進むと、サークルでは歓迎された。

 

初めて島田の歌を聞いたのは、新入生歓迎コンサートだった。

彼は単独で活動していて、あるバンドのゲストボーカルとしてステージに立った。

レベルが違う。そう思った。

自分の世界を作っていた。
抑えたステージアクションも新鮮だった。

「ブリザード」のボーカルはオーバーアクションの連続で、私には、悪ふざけとしか思えなかったのだ。
 島田が話しかけてきたのは、五月の半ば、すでに蒸し暑いサークルの部屋だった。

 

「おまえ、けっこう弾けるそうやないか」
私はツェッペリンの「ホール・ロタ・ラブ」のリフを弾いていた。

棒付きキャンディーを咥えながら。

「タバコっちゅうのはあるけどな、キース・リチャードとか」
島田は正面に腰をおろした。
ジミー・ペイジもやってたか。おまえは、飴ちゃんかよ」
「まだ十八なんですよ。キャンディなんて、ロックっぽくないけど」
島田が見つめる。

「一緒にやらへんか。目標はプロや」
彼が、私を誘った理由はわからない。他にも弾ける者はいたはずだ。

考えたのは一瞬だった。頷いていた。

「プロ」という言葉に、惹かれたのかも知れない。