承前
夏休み、私たちはライブハウスに出演するようになった。
島田がオファーを取り付けてきた。
彼は関係者からも評価されていて、顔が利いたのだ。
バンド名は、「京都烏丸ブルースバンド」。
ライブハウスのオーナーが名付け親だ。
あご髭が三十センチくらいある。地元の有名人。
「かっこええやん」
島田も大物の意見は聞く。
「『京都烏丸ブルーズバンド』だ」
彼は、なぜか「ブルーズ」という発音にこだわっていた。
自分の主張を付け加えることは忘れない。
オーナーが苦笑していた。
「キャンディ、咥えとけよ」
私には相変わらず偉そうだ。黙って従った。
具志堅は出番直前に飛び込んで来て、テニスウェアのままでステージに上がる。
島田の歌、
汗だくドラマー、
キャンディギタリスト。
興味を持たれ、そこそこの数の客を集めた。
城間は堅実だった。
「ベース、うまいじゃないか」
髭のオーナーが呟くのを聞いて、私は悔しさを感じた。
自分はキャンディで受けているだけだ。
それでも、名前と顔が知られるのはうれしかった。
実力派のボーカルとベース。ユニークなギターとドラム。
地元のラジオ局が取材に来たこともあった。
客前での演奏はプレーヤーを成長させる。
大学祭には、プロのバンドがゲストで来たが、私たちは前座をつとめた。
一回生が三人。異例だった。私たちは自信をつけていった。