承前
追憶編・最初
追憶編・前回
告別式翌日の午後、私が出勤すると、
同僚たちが引いていた。
仕方がないじゃないか。
私だって休みたい。
でも、今日も講習があり、研修があり、部活動がある。
この頃、ルーメンらのクラスを担当していた。
正直、いろいろやってくれた。
深夜に、身柄を引き取りに行ったこともある。
やんちゃなグループが、やらかしてくれる。
ところが、この夏以降、トラブルで走り回った記憶はない。
卒業式の前日。
ルーメンが、私の前に立った。
「三ツ色先生、奥さんが亡くなっても、
アタシらのめんどう見てくれて、ありがとうございました。
アタシら、せめて、迷惑かけないようにって思ったけど、
うまくいかなくてごめんね。ほんとにごめんね」
他のやんちゃな連中も、そろって頭を下げていた。
さすがに、私も、泣いた。
そんなことがあったから、仕事は続けた。
カノンの写真に、行ってきますと言う。
あの朝のことを思い出す。
最後のことば。
「まさみさんこそ、暑いから気を付けてね」
冬であっても思うのだ。それはしかたがない。
昇進する。そういう話が来た。
管理職。
もう無理だ。
早期退職を願い出た。
やはり、あの日、休んでいたら。
そう思いながら、いまも、
しおかぜ町で生きている私がいる。
現実的なことを言うとシラけるが
退職金と貯金と
たまに入る原稿料。
それで暮らしている。
写真のカノンは若いままだが、
私はすっかり”オジさん”になった。
仕方がない。
これでいいのだ。
生きているのだ。
ありがたいことに
寄り添う人もいる。
現実だ。
しおかぜ町で、
私は生きている。
現実を生きているのだ。
追憶編 了