しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から~追憶編8最終

承前

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告別式翌日の午後、私が出勤すると、

同僚たちが引いていた。

仕方がないじゃないか。

私だって休みたい。

でも、今日も講習があり、研修があり、部活動がある。

 

この頃、ルーメンらのクラスを担当していた。

正直、いろいろやってくれた。

深夜に、身柄を引き取りに行ったこともある。

やんちゃなグループが、やらかしてくれる。

ところが、この夏以降、トラブルで走り回った記憶はない。

 

卒業式の前日。

ルーメンが、私の前に立った。

「三ツ色先生、奥さんが亡くなっても、

アタシらのめんどう見てくれて、ありがとうございました。

アタシら、せめて、迷惑かけないようにって思ったけど、

うまくいかなくてごめんね。ほんとにごめんね」

他のやんちゃな連中も、そろって頭を下げていた。

 

さすがに、私も、泣いた。

 

そんなことがあったから、仕事は続けた。

 

カノンの写真に、行ってきますと言う。

あの朝のことを思い出す。

最後のことば。

「まさみさんこそ、暑いから気を付けてね」

冬であっても思うのだ。それはしかたがない。

 

昇進する。そういう話が来た。

管理職。

もう無理だ。

早期退職を願い出た。

 

やはり、あの日、休んでいたら。

そう思いながら、いまも、

しおかぜ町で生きている私がいる。

 

現実的なことを言うとシラけるが

退職金と貯金と

たまに入る原稿料。

それで暮らしている。

写真のカノンは若いままだが、

私はすっかり”オジさん”になった。

 

仕方がない。

これでいいのだ。

生きているのだ。

ありがたいことに

寄り添う人もいる。

現実だ。

しおかぜ町で、

私は生きている。

現実を生きているのだ。

 

追憶編 了