しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/12/19宗介さん

しおかぜ町だって、ひどく寒い。

天気予報を見て縮み上がっていた。

外出するので、思いっきり着込んだら

それほどでもなかった。

キツキツの上半身で歩いていたら、

宗介さんに会った。

グルメフェスティバルのバンド演奏以来だ。

「お久しぶり」

「はい。お久しぶりです」

「息子がお世話になってるようで」

黒崎さんの演技指導のことか。

「まあ、ジョージ君を世話してるわけではないですけどね、ははは」

「けど、無理なお願いをして」

戸外の立ち話には厳しい気温である。

「寒いね」

「寒いですね」

というわけで、ヒマなオヤジ二人が

昼から酒を飲む。

「そう言えば打ち上げしてないですね」

例のバンドのことだ。

宗介さんのぐい飲みに熱燗を注ぐ。

真っ昼間の日本酒。串カツとおでんを頼んだ。

もう本格的である。

「だよね。やらなきゃね。ウチナンチュの内名さんも言ってたよ」

「ウチナンチュの内名さん、何気にベース、達者ですよね。

本番でアドリブ入れてましたよ」

そうなのだ。練習ではまったく出さなかったアドリブを、

よりによって本番で入れてきたのだ、あのウチナンチュの内名さん。

「だよな。ウチナンチュの内名さん、あんなことやるんだよな」

内名さんには必ず「ウチナンチュ」の冠が付く。

「それにしても、楽しかったよ。もうグルメフェスティバルなんて、どうでもよかったもん、もう一本」

宗介さんが、早くも日本酒を追加する。二合徳利である。

飲み始めて十五分くらいしか経ってない。

「宗介さん、ペース速くないですか」

「そうかなあ、がはは」

うわ、すでに酔っ払い始めてるぞ。

キンパッつぁんを呼ぼうか。あ、まだ勤務中か。

「なあ、三ツ色さん。あのバンド、これからも続けようや」

宗介さんが、串カツを振り回す。

「ええ?」

「別に、金を稼ごうって訳じゃない。趣味としてはいい趣味じゃないか」

まあ、そうだけど、私も忙しいしなあ。

「まあ、まあ、三ツ色さん、飲んで、飲んで」

私の器に酒を注いでくれるが、しっかり溢れさせる。

「あわわ」

「おー悪い、悪い」

結局、三本開けた。六合である。

そのうち四合は、宗介さんの体内に吸収された。

酔っぱらった宗介さんを抱えて店を出る。

ちなみに、火曜日の午後二時である。

世間では、みんなまじめに働いている師走のウイークデイ。

リビアさんの雑貨店が近かった。そこに連れて行った。

幸い、お客さんはいなかったので

顰蹙(ひんしゅく)を買うことはなかったはずだ。

ただ、オリビアさんがずっと無言だった。

おそらく怒っていたのだと思う。