しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/12/16黒崎樹里亜レッスン

三ツ色だって洗濯はする。

集合住宅なのでベランダに干す。

一応、屋根はあるのだが、雨風が強いと台無しだ。

今日は油断した。

外出している間に雨。低気圧通過の影響で風も強い。

まあ、私の洗濯物はともかく

日本中寒くなるそうです。

みなさま、お気をつけて。

 

そんなわけで、洗濯物が気になりながらも

黒崎樹里亜さんのレッスンに行く。

滑舌の訓練や朗読。

今日は、三十分後にダンスの先生が来る。

それまで、君のことを話してくれるかい。

「なんか、恥ずかしいです」と言ったが、

素直に私の前に座った。

 

期末考査はだいじょうぶだよね」

私が訊くと、彼女は「たぶん」と答えた。

内申書の成績は、二学期で決定するのだろうが、

彼女の成績はいい(らしい。個人情報だ)。

理系の教科が好きという。意外だ。

ことばを選ばないなら「不良」だったのだ。

本人も認めている。教師にも睨まれていた。

「だから、なんです」

先生を見返したかったから。

今になって後悔してますけど。

先生なんて敵だって思ってたから。

「敵はやっつけないとだめじゃないですか」

それも相手の土俵で。

そう考えていたのだと言う。

だから勉強はした。

仲間と遊んでも、帰って夜中に勉強した。

わからないところは、遊び仲間の大学生を頼った。

充分ではなかったが、ヒントにはなった。

もともと頭のいい子なのだろう。

「なんか、回り道したなあ。セックスしか興味ないような大学生が、三角関数微分をわかってなかった。

はじめっから先生たちを頼っておけばよかった」

そう思わせてくれたのは、キンパッつぁんだ。

感謝していると言う。

もちろん、受験を勧めてくれた担任や、

バイク事故のあと、奔走してくれたゴルゴ鷹木、

事故でついた顔の傷を、

目立たないようにメイクしたらいいわよ。

それまで、罵り合ってきた生活指導部、岡部先生の

信じられないことば。

 

「私、絶対合格しないと」

これまで係わった人が思いもしなかっただろう、

美しい涙を黒崎樹里亜が流す。

 

「そうだな、がんばろう」

彼女に言った形だが、自分に気合いを入れた気がする。

ダンスの先生がいらしたので、私は退散する。

「ありがとうございました」

なぜ、彼女が、以前は反抗的だったのか。

気にはなったが、今はとにかく演劇学科合格をめざさなければならない。

でもまあ、今の彼女なら、だいじょうぶじゃないか。

私はそう思っていた。