しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2024/01/26さらに病室にて

事故からもうすぐ三週間である。

なんとか起きあがることができるようになり、

脚は無事なので歩いたりはできるが、

依然、いろんな箇所が痛むので

たいていはベッドで過ごしている。

頭を打ったし、事故直後は意識を失ったりしていたのだが、

幸いアホにはならなかったようで、一安心である。

とは言え、

事故のせいで、いろいろなことが中断してしまい

迷惑をかけている。

萌花のフランスワイン留学を中止させてしまったし、

黒崎樹里亜さんの演技レッスンも中断した。

キンパッつぁんが後を引き受けてくれたが、

まったく申し訳ないことである。

さらに…

 

宗介さんがお見舞いに来てくれた。

「酒ってわけにはいかないしなあ」

なぜか、みんな同じことを言いながら、

見舞いの品を持って来てくれる。

「カステラだ。意外と当たり前すぎて、かえって珍しいだろう」

萌花が『文〇堂』の大きな箱を受け取った。

「重い!」

「その重さに、ありがたみがあるってもんだ」

宗介さん流の心遣いなのだろう。

「バンド練習は、しばらく延期だな」

「すみません」

去年、イベントのために結成した”オジさんバンド”を

趣味で続けようとしていたのだ。

「手や指は、大丈夫なのかい」

「それは問題ないです。ギターは弾けますよ。

しばらくは重たく感じるかも知れないけど」

鎖骨とあばらにヒビが入っている。

「まあ、生きててよかったよ。

頭を打ったって聞いたしさ」

まったくだ。大事に至らなくてよかった。

とは言え、これでもけっこう大ごとだが。

宗介さんは、30分ほどで帰って行った。

萌花が見送って、戻って来た。

 

「三ツ色さん、ところでさあ」

ベッドのそばに座って、萌花が言う。

「相談なんだけど」

実家の彼女の部屋は、現在、優理が使っている。

父親の虐待から逃れるためにそうしたのだ。

しおかぜ町から2023/09/09最後はラブストーリーに - しおかぜ町から

「でも、私が戻って来たでしょ。優理が気を使っちゃって。

開いてる部屋があるから、大丈夫って言ってるんだけど」

今は、萌花は客間で寝ているらしい。

「あれから、半年も経たないし。また、あのお父さんが来るかも知れないから、

彼女をひとりにはできないよ」

それはそうだ。あのクソオヤジ。人を掃除機で殴りやがって。

「さて、それで、だよ。まさみさ~ん」

萌花が、甘い声を出す。

なんだ?

「私、三ツ色さんのところに引っ越す。そういう話で、どうでしょうか」