しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/11/23

女子高生三人組(黒崎、沼田、内田)が、私たちのバンド練習を見学したいと言う。

「いいですかねえ」

キンパッつぁんこと、夏目先生が申し訳なさそうに尋ねる。

「俺はいいけど、宗介さんとか木之内先生に聞いたほうがいいんじゃないかな?」

「ですね」

キンパッつぁんが内線電話をかけに行った。

待ってる間、三人組が私の方をちらちら見る。興味津々という感じ。

なんか照れくさい。

キンパッつぁんが戻って来た。

「いいって」

「やったあ」

喜ぶ女子高生を引き連れて、練習場所の音楽室へ向かう。

 

キーボードとアンプを繋いでいた木之内先生が、生徒たちに言う。

「あなたたち、受験勉強しないでいいの? こんなことしてて」

「息抜きも必要だと思って」

内田さんが小さな声で言い訳をする。

「息抜きばっかりじゃないの、鷹木先生に言っておく」

生徒たちが「ひえ~」と言っている。

ゴルゴ鷹木、そうとう怖いんだな。

キンパッつぁんは、ニヤニヤ笑っていた。

 

ギャラリーができて、宗介さんが張り切っていた。

「さあ、がんばっていこうか。内名さん、準備はいいかい」

彼は、ベース担当のウチナンチュの内名さんに声をかけたのだが、

生徒の内田さんが、自分の名前だと思い「は、はい!」と大声で返事した。

「ウチナ」と「ウチダ」は、確かに間違えそうだ。

みんな、最初は意味がわからずきょとんとしていた。

キンパッつぁんが

「こちらが『ウチナ』さん。キミは『ウチダ』さん」

と説明して、爆笑となった。

なごやかな雰囲気で練習を始める。

来週が本番なので、ほぼ仕上がっている。

五曲をていねいに確認していった。

何カ所か修正しただけで終わる。

なんとかうまくいくだろう。手応えはあった。

 

最後の曲を、宗介さんのドラムが「タタタタタン」と締めると、

生徒たちが拍手をしてくれた。

「すごいね」

なんて言われると悪い気はしない。

「さあ、もういいだろ。君ら、帰って勉強、勉強。受験生なんだからな」

キンパッつぁんが、三人組を急かす。

「はーい」

「ありがとうございました。さようなら」

樹里亜さんが、私に向かって深い礼をした。

「三ツ色先生、来週からよろしくお願いします」

顔をあげると、口元を引き締めていた。

「さようなら、おつかれさまでした」

静かにドアを閉めていく。

木之内先生が感心していた。

「あの子、変わったわね。びっくりね。夏目先生のおかげだね」

「いや、とんでもない。ボクなんて『アホ、アホ』って言ってただけですから」

「三ツ色さん。夏目先生の無理なお願いを引き受けてくれて、ありがとうございます」

「ほんとに、すっかり乗せられちゃいました、あはは」

「へへへ」と、キンパッつぁんも笑う。


いろいろと、忙しい秋から年末になりそうだ。