女子高生三人組(黒崎、沼田、内田)が、私たちのバンド練習を見学したいと言う。
「いいですかねえ」
キンパッつぁんこと、夏目先生が申し訳なさそうに尋ねる。
「俺はいいけど、宗介さんとか木之内先生に聞いたほうがいいんじゃないかな?」
「ですね」
キンパッつぁんが内線電話をかけに行った。
待ってる間、三人組が私の方をちらちら見る。興味津々という感じ。
なんか照れくさい。
キンパッつぁんが戻って来た。
「いいって」
「やったあ」
喜ぶ女子高生を引き連れて、練習場所の音楽室へ向かう。
キーボードとアンプを繋いでいた木之内先生が、生徒たちに言う。
「あなたたち、受験勉強しないでいいの? こんなことしてて」
「息抜きも必要だと思って」
内田さんが小さな声で言い訳をする。
「息抜きばっかりじゃないの、鷹木先生に言っておく」
生徒たちが「ひえ~」と言っている。
ゴルゴ鷹木、そうとう怖いんだな。
キンパッつぁんは、ニヤニヤ笑っていた。
ギャラリーができて、宗介さんが張り切っていた。
「さあ、がんばっていこうか。内名さん、準備はいいかい」
彼は、ベース担当のウチナンチュの内名さんに声をかけたのだが、
生徒の内田さんが、自分の名前だと思い「は、はい!」と大声で返事した。
「ウチナ」と「ウチダ」は、確かに間違えそうだ。
みんな、最初は意味がわからずきょとんとしていた。
キンパッつぁんが
「こちらが『ウチナ』さん。キミは『ウチダ』さん」
と説明して、爆笑となった。
なごやかな雰囲気で練習を始める。
来週が本番なので、ほぼ仕上がっている。
五曲をていねいに確認していった。
何カ所か修正しただけで終わる。
なんとかうまくいくだろう。手応えはあった。
最後の曲を、宗介さんのドラムが「タタタタタン」と締めると、
生徒たちが拍手をしてくれた。
「すごいね」
なんて言われると悪い気はしない。
「さあ、もういいだろ。君ら、帰って勉強、勉強。受験生なんだからな」
キンパッつぁんが、三人組を急かす。
「はーい」
「ありがとうございました。さようなら」
樹里亜さんが、私に向かって深い礼をした。
「三ツ色先生、来週からよろしくお願いします」
顔をあげると、口元を引き締めていた。
「さようなら、おつかれさまでした」
静かにドアを閉めていく。
木之内先生が感心していた。
「あの子、変わったわね。びっくりね。夏目先生のおかげだね」
「いや、とんでもない。ボクなんて『アホ、アホ』って言ってただけですから」
「三ツ色さん。夏目先生の無理なお願いを引き受けてくれて、ありがとうございます」
「ほんとに、すっかり乗せられちゃいました、あはは」
「へへへ」と、キンパッつぁんも笑う。
いろいろと、忙しい秋から年末になりそうだ。