しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/09/22休んでいられない

壮行会の時間。

私は、自宅でビールを飲みながら、

7時のNHKニュースを見ていた。

京都アニメーション放火事件の裁判。

小説をパクられたって、その小説、読んでみたいもんだ。

考えていたとき、萌花からLINEが来た。

「今、こんな感じ」

画像がついている。出席者の笑顔。

「主役がスマホいじっていていいのか?」

返信すると、即レス。

「みんなが、三ツ色さんに送れって言うの」

おいおい……

「三ツ色さんの怪我を、信じてない人がいる。

ライブ通話に切り替えるよ」

画面に、ルーメンが現れた。

「あ、三ツ色さんに抱かれた女で~す」

萌花が本気で突き飛ばすのが見えた。

「痛い、痛い。もうセンセー、この子なんとかしてよ」

「いらんこと言うからだろ。てか、お前もいるのか?」

「当たり前でしょ。センセーの大事な人と旅をするんだから。

正式に招待されてま~す」

ルーメンも、ヨーロッパに行く。

スケジュールを合わせてくれたのはまちがいない。

「ほんとうだ。頭に包帯巻いてる」

「言ったじゃん。あの包帯、私が巻いてあげたんだよ」

「センセー、ここにノロケてる子がいるんですけど」

仲がよくて、なによりだ。

「てか、それくらい元気なら、こっちに来れそうじゃん」

さすがルーメン、核心を突く。

「まあ、無理すればな」

「ふ~ん」

ルーメンが萌花を見る。頷く。

「なるほど。わかる気がする」

けどね。

「料理、おいしいよ。ワイン、飲み放題だよ。

センセー、一人で発泡酒飲んでるんだろ」

「何、言ってんだ。プレモルだ」

テーブルの缶を見せる。萌花が割り込んできた。

「あんまり飲むと傷が痛むよ、三ツ色さん」

ルーメンが逃さない。

「なんかイチャついてる人がいるんですけど~!」

会場に向かって叫ぶ。画面に知っている顔。

木俣さんだ。萌花の師匠。ソムリエ。

「三ツ色さんお大事に。元気になったら、ご来店くださいね」

はい。ありがとうございます。行かせてもらいます。

次は!

背筋が伸びた。

萌花のご両親だった。

「娘が……。このたびは、いろいろありがとうございます」

いや、もう、なんと申し上げていいのか。

大汗をかいたが、

萌花が、おとうさんの後ろでVサインを出していた。

安心していいのか。

再び、萌花とルーメン。

「両親のお許し、もらってんじゃん。

なんなの、こんなかわいい若い子を」

ルーメンが萌花の肩を抱く。

「そんなわけで、センセー、帰りに寄るからね」

ええ! ウソだろ!