壮行会の時間。
私は、自宅でビールを飲みながら、
7時のNHKニュースを見ていた。
京都アニメーション放火事件の裁判。
小説をパクられたって、その小説、読んでみたいもんだ。
考えていたとき、萌花からLINEが来た。
「今、こんな感じ」
画像がついている。出席者の笑顔。
「主役がスマホいじっていていいのか?」
返信すると、即レス。
「みんなが、三ツ色さんに送れって言うの」
おいおい……
「三ツ色さんの怪我を、信じてない人がいる。
ライブ通話に切り替えるよ」
画面に、ルーメンが現れた。
「あ、三ツ色さんに抱かれた女で~す」
萌花が本気で突き飛ばすのが見えた。
「痛い、痛い。もうセンセー、この子なんとかしてよ」
「いらんこと言うからだろ。てか、お前もいるのか?」
「当たり前でしょ。センセーの大事な人と旅をするんだから。
正式に招待されてま~す」
ルーメンも、ヨーロッパに行く。
スケジュールを合わせてくれたのはまちがいない。
「ほんとうだ。頭に包帯巻いてる」
「言ったじゃん。あの包帯、私が巻いてあげたんだよ」
「センセー、ここにノロケてる子がいるんですけど」
仲がよくて、なによりだ。
「てか、それくらい元気なら、こっちに来れそうじゃん」
さすがルーメン、核心を突く。
「まあ、無理すればな」
「ふ~ん」
ルーメンが萌花を見る。頷く。
「なるほど。わかる気がする」
けどね。
「料理、おいしいよ。ワイン、飲み放題だよ。
センセー、一人で発泡酒飲んでるんだろ」
「何、言ってんだ。プレモルだ」
テーブルの缶を見せる。萌花が割り込んできた。
「あんまり飲むと傷が痛むよ、三ツ色さん」
ルーメンが逃さない。
「なんかイチャついてる人がいるんですけど~!」
会場に向かって叫ぶ。画面に知っている顔。
木俣さんだ。萌花の師匠。ソムリエ。
「三ツ色さんお大事に。元気になったら、ご来店くださいね」
はい。ありがとうございます。行かせてもらいます。
次は!
背筋が伸びた。
萌花のご両親だった。
「娘が……。このたびは、いろいろありがとうございます」
いや、もう、なんと申し上げていいのか。
大汗をかいたが、
萌花が、おとうさんの後ろでVサインを出していた。
安心していいのか。
再び、萌花とルーメン。
「両親のお許し、もらってんじゃん。
なんなの、こんなかわいい若い子を」
ルーメンが萌花の肩を抱く。
「そんなわけで、センセー、帰りに寄るからね」
ええ! ウソだろ!