しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/10/13遠く離れても

萌花がフランスに発って一週間過ぎた。

出発の日、私は見送りに行かなかった。

ふたりで相談して決めていた。

私は、『人生においてものすごく重要な一日』にしたくなかった。

軽く「行っといで」と言いたかった。

 

一方の萌花は

「私、ドラマのヒロインみたいに

振り向かないで、手だけでバイバイってして、

ゲートに入って行く、みたいなことできそうにない。

『行きたくなーい』って、

三ツ色さんにしがみつきそう。

それ、かっこ悪いでしょ」

などと言う。

そんなわけで、意見が一致した。

あとで聞くと、

ルーメンが「それはいいけど、私を見送ってくれてもいいじゃん」と

文句を言っていたそうだ。

望んだとおり、あっさりと

「これから飛行機に乗るね」というLINEが来て、

萌花は行ってしまった。

 

遠く離れはしたが

ひと昔前とは違う。

今は、LINEやメールでやり取りできるし、

パソコン画面で、顔を見て話もできる。

ただ、時差がずいぶんある。

どうしても、向こうに合わせてしまうので、

私は眠い。

そんな私を見て、萌花が言う。

「おじいちゃんが、縁側でいねむりしてる感じだよ」

口の悪さが復活した。

いいことだと思う。それでこそ萌花だ。

その勢いで、フランスで生き抜いてきてくれ。

私も、ここでなんとなく生き抜いていくから。

そんなわけで、萌花のいない「しおかぜ町」で

私は暮らしていく。