萌花がフランスに発って一週間過ぎた。
出発の日、私は見送りに行かなかった。
ふたりで相談して決めていた。
私は、『人生においてものすごく重要な一日』にしたくなかった。
軽く「行っといで」と言いたかった。
一方の萌花は
「私、ドラマのヒロインみたいに
振り向かないで、手だけでバイバイってして、
ゲートに入って行く、みたいなことできそうにない。
『行きたくなーい』って、
三ツ色さんにしがみつきそう。
それ、かっこ悪いでしょ」
などと言う。
そんなわけで、意見が一致した。
あとで聞くと、
ルーメンが「それはいいけど、私を見送ってくれてもいいじゃん」と
文句を言っていたそうだ。
望んだとおり、あっさりと
「これから飛行機に乗るね」というLINEが来て、
萌花は行ってしまった。
遠く離れはしたが
ひと昔前とは違う。
今は、LINEやメールでやり取りできるし、
パソコン画面で、顔を見て話もできる。
ただ、時差がずいぶんある。
どうしても、向こうに合わせてしまうので、
私は眠い。
そんな私を見て、萌花が言う。
「おじいちゃんが、縁側でいねむりしてる感じだよ」
口の悪さが復活した。
いいことだと思う。それでこそ萌花だ。
その勢いで、フランスで生き抜いてきてくれ。
私も、ここでなんとなく生き抜いていくから。
そんなわけで、萌花のいない「しおかぜ町」で
私は暮らしていく。