しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

【新章スタート】「三ツ色日記」2024/02/13

退院した。
幸い後遺症も無く、
あばらと鎖骨の痛みも、ほぼ無くなった。

およそひと月ぶりの自宅。

しかも萌花がいる。

「荷物はそれだけ?」

キャリーケース2つが、彼女の荷物だ。

「着替えと身の回りの物くらいだから。

要るものがあったら、取りに帰るし」

実家まで十分くらいだ。

「フランスにも、私物を置いたままになってるし」

そうなのだ。私の怪我の報せを受けて

躰ひとつで飛んで帰って来たのだ、彼女は。

「いつ頃、向こうに行く?」

修行していた店への挨拶や、部屋の整理のために

もう一度渡仏しなければならない。

「うーん、早いほうがいいんだけど。どうしよう」

まだ、三ツ色さんをひとりで置いていけないしなあ。

私の顔を覗き込む。

「ごめんな」

退院したんだから、大丈夫だよ。

言ってはみたが、確かに不安なことも多い。

「気にしないでよ。そのために帰って来たんだし」

三月になれば行けるだろう。

そう話し合って決めた。

「桜が咲くまでに、戻ってくる。

お花見、いっしょにしたいし。

それにルーメンさんも、その頃、帰国するって言ってたし」

ルーメンはさすらいの占い師。

今はポルトガルにいる。先週、オンラインで話をした。

彼女はタビラという街の、けっこうなリゾートホテルにいた。

いいなあ。病室の私は、思わず言っていた。

そのルーメンが帰ってくる頃には

もう暖かくなっているだろう。

さんざんな新年だったが、そろそろツキも回ってきてほしいものだ。

あらためてルーメンに占ってもらおうか。

萌花がビールを運んで来た。

「少しだけだよ」

ささやかに乾杯。退院祝いである。

久しぶりのビールは、沁みた。