しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

「三ツ色日記」2024/03/05泣かせるなあ、ルーメン

(日本の)早朝に、萌花からビデオ通話のリクエストが来た。

間もなく引き払うことになるアパルトマン。

そして萌花とルーメン。

「ヤッホー。センセー。センセーの大事な人と合流したよ」

さすがに「三ツ色に抱かれた女です」は封印してくれたようだ。

占い師の元気な声に、なぜか泣きそうになる。

「〇〇(ルーメンの本名だ)、ありがとうな」

「やだ、本名言わないでよ。現実に戻る」

隣で萌花が泣いている。気持ちはわかる。

ルーメンは救いだ。

「センセー、大変だったね。もう元気になった?」

「うん。酒も飲める」

「そっか、日本に帰ったらお花見しようね~」

彼女の明るさは何だろう。当然、

屈託もあるはずなのに。

それを吹き飛ばすパワー。

ポルトガルでさ。ロシアの『オリガルヒ』に気に入られてね」

また、ものすごい話が始まる。プーチンを支援していたのに、

今は資産を狙われ海外に避難している大富豪らしい。

「占ってあげたら、すっかり、そのオジさんが信頼してくれた」

なんでも怪しい銀行口座のアクセスを許されたらしい。

「大丈夫なのか?」

「わからない。怖いから触ってない。

KGB(ロシアの情報組織)に狙われたらいやじゃん」

巻き添えにされたらたまらない。

「ぜひ、そうしろ」

「わかってるって」

もはやルーメンのパワーは世界レベルだ。

「萌花の用事、助けてやってくれよな」

「うん。荷物の処分とか、困るんだよね」

萌花が隣で肯く。

「頼むよ、〇〇」

「だから、本名言わないでって」

ところでさ。ルーメンが言う。

「去年の今ごろ、先生のこと、占ったの覚えてる?」

覚えているとも。死神のカードが出たのだ。

 

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「スクラップ&ビルドって言われたなあ」

「だよね。で、どうだった」

「ひどい怪我をした。いろんなことがあった。だけど、そんで」

「萌花ちゃんと新しい生活が始まった」

「ああ、そうだよ」

「どう? 私の占い」

難癖をつければそれまでだが……。

「参りました。おそれいりました」

「へへ」

ロシアの大富豪も、なにか思い当たることがあったのだろうか。

恐るべしルーメン。

「まあ、でもほんの恩返しだから」

妙に神妙に占い師が言う。

「今の私は、センセーのおかげだからね」

教員時代、必死で向き合った。

妻の葬儀の翌日に、〇〇(本名だ)の生活を気にして話をした。

fabuloushunter.hatenablog.com

それにしても。

 

「じゃあ、萌花ちゃんといっしょに帰国するから。

いっしょにお花見しようね」

萌花が号泣していた。

ルーメンが「えー、どうした?」と言っている。

その空気を読まないのも、

すごいぞ、さすらいの占い師。