(日本の)早朝に、萌花からビデオ通話のリクエストが来た。
間もなく引き払うことになるアパルトマン。
そして萌花とルーメン。
「ヤッホー。センセー。センセーの大事な人と合流したよ」
さすがに「三ツ色に抱かれた女です」は封印してくれたようだ。
占い師の元気な声に、なぜか泣きそうになる。
「〇〇(ルーメンの本名だ)、ありがとうな」
「やだ、本名言わないでよ。現実に戻る」
隣で萌花が泣いている。気持ちはわかる。
ルーメンは救いだ。
「センセー、大変だったね。もう元気になった?」
「うん。酒も飲める」
「そっか、日本に帰ったらお花見しようね~」
彼女の明るさは何だろう。当然、
屈託もあるはずなのに。
それを吹き飛ばすパワー。
「ポルトガルでさ。ロシアの『オリガルヒ』に気に入られてね」
また、ものすごい話が始まる。プーチンを支援していたのに、
今は資産を狙われ海外に避難している大富豪らしい。
「占ってあげたら、すっかり、そのオジさんが信頼してくれた」
なんでも怪しい銀行口座のアクセスを許されたらしい。
「大丈夫なのか?」
「わからない。怖いから触ってない。
KGB(ロシアの情報組織)に狙われたらいやじゃん」
巻き添えにされたらたまらない。
「ぜひ、そうしろ」
「わかってるって」
もはやルーメンのパワーは世界レベルだ。
「萌花の用事、助けてやってくれよな」
「うん。荷物の処分とか、困るんだよね」
萌花が隣で肯く。
「頼むよ、〇〇」
「だから、本名言わないでって」
ところでさ。ルーメンが言う。
「去年の今ごろ、先生のこと、占ったの覚えてる?」
覚えているとも。死神のカードが出たのだ。
「スクラップ&ビルドって言われたなあ」
「だよね。で、どうだった」
「ひどい怪我をした。いろんなことがあった。だけど、そんで」
「萌花ちゃんと新しい生活が始まった」
「ああ、そうだよ」
「どう? 私の占い」
難癖をつければそれまでだが……。
「参りました。おそれいりました」
「へへ」
ロシアの大富豪も、なにか思い当たることがあったのだろうか。
恐るべしルーメン。
「まあ、でもほんの恩返しだから」
妙に神妙に占い師が言う。
「今の私は、センセーのおかげだからね」
教員時代、必死で向き合った。
妻の葬儀の翌日に、〇〇(本名だ)の生活を気にして話をした。
それにしても。
「じゃあ、萌花ちゃんといっしょに帰国するから。
いっしょにお花見しようね」
萌花が号泣していた。
ルーメンが「えー、どうした?」と言っている。
その空気を読まないのも、
すごいぞ、さすらいの占い師。