しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

「三ツ色日記」2024/02/15

「黒崎さん、合格したって」

萌花のLINEに連絡が来たらしい。

前後して、私の携帯に着信。

キンパッつぁんからだ。

「黒崎が、第一志望に合格しました」

芸術学部の演劇学科。

彼女の受験直前に、私が事故にあったので

ほっとすると同時に、申し訳ない気持ちになる。

「いや、肝心なところで、お役に立てずに」

「そんなことないです。本人も感謝してます」

 

自分に自信を持ちなよ。

私にできたことは、そう言って、その手助けをすることだった。

やんちゃで反抗的で、うまくいかないのは他人のせい。

黒崎樹里亜は、

そんな過去の自分を責めていた。

でも、

過去は過去。消せはしないが、過ぎたこと。

やんちゃが過ぎて、

彼女の顔に残った傷は消えないけれど

隠すことはできるだろ。

それに、そもそもそんな傷、誰も気にしないし

気付いても、関心持たないし

話題にもしないよ。

どんだけ、自意識が強いんだい。

自意識じゃなくて自信を強くするんだよ、

黒崎樹里亜くん。

演技力、表現力、技術もあった。

実技で不合格にする試験官がいたら、

そのほうがどうかしている。

実際、私はそう思っていた。

だから、彼女の人間性が伝われば大丈夫だ。

私が途中で離脱したために

意図がどれほど伝わったかはわからないが、

合格したのだから、うまくいったのだろう。

よかった、よかった。

それにしても……

 

萌花が私と暮らし始めたと知って

黒崎さんとお友達軍団が大騒ぎしているらしい。

まったく、

今日は、春のような陽気である。