チェーン店のカフェ。
ハムサンドを食おうとしていた。
急に声をかけられて驚く。
「ミスター・カラーズ」
金髪の大男は、私をそう呼ぶ。
『三ツ色』だから『カラーズ』。
『三』はどこに行ったんだ?
ロンバード。カナダ人である。私の英語のコーチ。
いいか、とも聞かずに前に座る。
グランデサイズのアイスコーヒー。
よく食うな。
「ミスター・カラーズは最近どうね?」
どうね、って何がだ?
「まあまあだね」
こちらも適当に答える。
「それはケッコーなことね」
全く意味のない会話を、外国人とする。
ボサボサの金髪、口髭。
小さなスタン・ハンセン。
「カナダには? 帰らないの?」
「そうだね。マメンパパ(ママ・アンド・パパ)に会わなきゃと思ってるけど」
ピザをちぎる。
「ほら、今ニッポン、美しい季節じゃないか。サクラ。花見、したいじゃないか」
「なるほど」
花見もいいけど、両親に会うのも大切だ。
そう思うけどな。
彼は3年前の2月に、日本人の彼女と結婚した。
直後、コロナが蔓延し
帰国するチャンスがなかった。
つまり、彼の両親と奥さんは会ったことがない。
「早く会わせてあげなよ」
「オンラインで顔を見てるから、だいじょうぶネ」
「そうかもしれないけどさ」
夏の休暇には実現させるよ、と言う。
まあ、それならいいけどさ。
「カラーズのお母さんは元気?」
「グループホームで元気にやってる」
「ユー、会いに行かないとダメだよ」
アンタには、
アンタにだけは言われたくない。