しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/04/07

しおかぜ町も雨の中である。大雨だ。

学校は、今日から新学期だろうか。

 

同窓会のイベントで母校に行った。

その日は快晴で、校庭の桜が美しかった。

茶道部の部員さんに

お茶を点てていただいた。

結構なお点前。風流である。

ただ、

場所がお茶室だった。

当然、畳である。

正座がつらい。

友人は、脚が痛いのだろう。

体重をかけないように、前傾姿勢になっている。

両手をついて、謝罪しているみたいだ。

 

最近は、お葬式や法事でも

椅子席が用意されている。

正座するのは、いつ以来だろう。

立ち上がるとき足が痺れて転ぶ、なんて失態は、

なんとか回避した。

 

グランドでは野球部が練習していた。

それを眺めながら、思い出話をする。

記憶違いも多く、驚くこともある。

恥ずかしいことが多い。

今は笑い飛ばせること、

今でも腹が立つこと。

「あいつは死んじまったしなあ」

そんなことも、増えてきた。

 

K 君は二年生と三年生で同じクラスだった。

親友と呼べるほどの仲ではなかったが、

バカ話もしたし、数人で映画を見に行ったこともある。

かなり優秀なヤツで、旧帝大のひとつに進学した。

その後のことは知らない。

 

ある日、ニュースで名前を聞いた。

私は、あのK君だとは気付かなかった。

後日、友人たちと話をしたときに、認識したのだ。

 

彼は殺された。

大きな事件だった(他にも被害者がいる。詳しくは書けない)。

犯罪被害者の実名報道

その是非には、意見があるが、

とにかく私たちは報道で、

K君の死を知った。

同級生が殺されるのは、衝撃的なことである。

 

「K君もなあ・・・」

バッティング練習の打球を追いながら、友人が言う。

「俺、いっしょに映画見に行った。『寅さん』だった」

「そうかあ」

「そうなんだ」

突然、人生が終わる。

予想もしない終わり方。

K君の気持ち。

もし自分がそうなったら。想像してしまう。

少しの沈黙。友人も考えている。

 

野球部は練習を続ける。

ボールを打つ。快音が響く。

彼らの人生は、続いていく。

いいもんだ。全力で生きている。

我々も、

正座がつらいなどと、言っている場合か。

K君が羨むくらい生きなければ。

 

「さあ、昼メシでも食いに行こうよ。

お茶菓子だけだし、腹減ったよ」

生きていれば、腹も減るし喉も渇く。

「よっし、どっか飲めるとこ行こう。

一杯くらい、いいだろ」

友人が言う。

「行こう、行こう。二杯まではいいんじゃないか」

「なんだ、その基準は?」

バカ話ができる幸せ。

校門を出る。

昔のままの校門だ。