しおかぜ町も雨の中である。大雨だ。
学校は、今日から新学期だろうか。
同窓会のイベントで母校に行った。
その日は快晴で、校庭の桜が美しかった。
茶道部の部員さんに
お茶を点てていただいた。
結構なお点前。風流である。
ただ、
場所がお茶室だった。
当然、畳である。
正座がつらい。
友人は、脚が痛いのだろう。
体重をかけないように、前傾姿勢になっている。
両手をついて、謝罪しているみたいだ。
最近は、お葬式や法事でも
椅子席が用意されている。
正座するのは、いつ以来だろう。
立ち上がるとき足が痺れて転ぶ、なんて失態は、
なんとか回避した。
グランドでは野球部が練習していた。
それを眺めながら、思い出話をする。
記憶違いも多く、驚くこともある。
恥ずかしいことが多い。
今は笑い飛ばせること、
今でも腹が立つこと。
「あいつは死んじまったしなあ」
そんなことも、増えてきた。
K 君は二年生と三年生で同じクラスだった。
親友と呼べるほどの仲ではなかったが、
バカ話もしたし、数人で映画を見に行ったこともある。
かなり優秀なヤツで、旧帝大のひとつに進学した。
その後のことは知らない。
ある日、ニュースで名前を聞いた。
私は、あのK君だとは気付かなかった。
後日、友人たちと話をしたときに、認識したのだ。
彼は殺された。
大きな事件だった(他にも被害者がいる。詳しくは書けない)。
犯罪被害者の実名報道、
その是非には、意見があるが、
とにかく私たちは報道で、
K君の死を知った。
同級生が殺されるのは、衝撃的なことである。
「K君もなあ・・・」
バッティング練習の打球を追いながら、友人が言う。
「俺、いっしょに映画見に行った。『寅さん』だった」
「そうかあ」
「そうなんだ」
突然、人生が終わる。
予想もしない終わり方。
K君の気持ち。
もし自分がそうなったら。想像してしまう。
少しの沈黙。友人も考えている。
野球部は練習を続ける。
ボールを打つ。快音が響く。
彼らの人生は、続いていく。
いいもんだ。全力で生きている。
我々も、
正座がつらいなどと、言っている場合か。
K君が羨むくらい生きなければ。
「さあ、昼メシでも食いに行こうよ。
お茶菓子だけだし、腹減ったよ」
生きていれば、腹も減るし喉も渇く。
「よっし、どっか飲めるとこ行こう。
一杯くらい、いいだろ」
友人が言う。
「行こう、行こう。二杯まではいいんじゃないか」
「なんだ、その基準は?」
バカ話ができる幸せ。
校門を出る。
昔のままの校門だ。