しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/06/19冒険占い師現る、からの大騒ぎ

【承前】つづき

しおかぜ町から2023/06/18冒険占い師帰国、からの…… - しおかぜ町から

「えっと、な、〇〇(ルーメンの本名だ)、ちょっと」

なんとか、体を離す。

「あ、ごめんね、私、思わず……」

ルーメンが、両手を合わせて「ごめんなさい」のポーズをする。

「と、とにかく、ちょっと」

『ひがしむら珈琲店』で向かい合わせに座る。

私はアイスカフェオレ。

なんだかわからないが、ルーメンは『カナディアンセット』を頼む。

「お腹、減ってるもん」

どうぞどうぞ、何でも食って。

ため息をついてから、さっきのことを話す。

ルーメンにとっては、背後で起こっていたこと。

もちろん知るよしもない。

「へえ~」

おもしろそうだ。

「その女の人って、センセーのこれ?」

小指をあげる。

昭和のオヤジか! 

「そういうのじゃない」

妙に弁解じみてしまう。

ただ、萌花の将来に、影響を与えた。

その責任は感じている。

ずっと感じている。

しおかぜ町2023/03/24花便り、ここで咲く - しおかぜ町から

 

ちゃんと、説明してくれよ。

ルーメンを説得して、萌花に電話を入れる。

テレビ電話。

意外と、ツーコールで出た。

「はい、〇〇(萌花の本名だ)です」

画面の顔が、マジである。

いや、怒ってるでしょうが!

「あ、あの、三ツ色だけど」

「三ツ色さま、ごぶさたしております」

なんだ、そのことば使いは!

キミの職場(有名レストラン)用ことば使いじゃないか。

普段なら「三ツ色、どうした~?」だろ。

あきらかに怒っている。

 

茶店の中なので、気を使うが

取り繕う余裕はない。

「あのさ、萌花……さん。さっきは」

「三ツ色さま、ワタクシ、まもなく仕事に」

もう、怒り心頭じゃん。こんなにわかりやすいの、逆に。

「ちょっと、ちょっと、とにかく話聞いて。我慢して聞いて。」

前の席で、腹を抱えて笑っていたルーメンにスマホをわたす。

「萌花さん、ごめんなさい。さっきのオンナです」

画面は見なかったが、萌花が驚いたのはわかった。

それから、ルーメンはていねいに説明をしてくれた。ありがたい。

自分が、私の生徒だったこと。

家庭の問題で悩んだとき、私に相談していたこと。

今回、危険な地域を旅していたとき、私と連絡を取り合っていたこと。

実家と言っても祖母しかいない、そこに帰る途中で

どうしても私に会いたくなったこと。

「だからさ、ごめんね。萌花ちゃん、驚かせて。

そんなわけだから、センセーを責めないで。

私が暴走した。だって、

萌花ちゃんも知ってるとおり、センセーはさ」

うん? オレはなんだ?

「わかるでしょ。三ツ色さんなんだよ」

なんじゃ、それは!

萌花がどんな顔をしたかはわからなかった。

ルーメンは向かいの席にいるから画面は見えなかった。

聞こえたのは、萌花の声だった。

「ルーメンさん、今、どこなんですか」

「駅前の、『ひがしむら珈琲店

センセーもいるよ」

「十分ほどで行けるから、待っててくれますか。

三ツ色が、三ツ色センセーが帰ると言っても、引き留めといてください」

ルーメンが、にやにや笑って、スマホを返してきた。

「だってよ」

 

【この項続く】