しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町2023/03/24花便り、ここで咲く

しおかぜ町も花盛りになりつつある。

少し早くないかと、見上げていた。

クニエダさんみたいに

あと何度、見ることができるかな

しおかぜ町から 2023年3月16日 - しおかぜ町から

ほどには思わないけれど

桜を見て、浮かれるほどに

屈託がないわけではない。

 

「三ツ色さんじゃん」

声をかけられた。萌花(もえか)だった。

細い。

顔、というか頭が小さい。

マスクが、よけいに顔の小ささを強調している。

黒目がちのおおきな瞳。人目を引く。

萌花は、あるアイドルグループへの加入が、ほぼ決まっていた。

〝地下〟ではない、メジャーアイドルグループである。

大物がプロデュースする、あのグループだ。

彼女の友人が、私の知り合いで

相談をされていた。

私は応援していたが、

彼女の両親は、芸能界入りに消極的だった。

家を出て東京に行くことに抵抗があったようだ。

それで、強く勧めることはできなかった。

 

萌花が反対を押し切ることはなかった。

だから今の彼女は一般人である。

それでも目立つ。

街を歩けば、振り返る人は多い。

煩わしいこともあるらしい。

 

そんな萌花だが、

口が悪い。

「なに、ボーッとしてんの。

魂、抜けてるじゃん。

もう、おじいちゃんの顔、してるじゃん。

死んでるのかと思ったよ。

桜の下なんて、洒落になんないよ」

少しだけ教養を入れてくるのも、鼻につく。

だから、そんなビジュアルなのにモテないんだ。

「ほっといてよ。もう恋愛とか、そんなの面倒くさいんだから」

こじらせ女子じゃないか、萌花。

「それで、三ツ色は何をしてたんだよ」

質問に質問に返すのは無粋だが、尋ねてみた。

「桜、見てどう思う?」

「なに、それ。きれいだなあって思うよ。三ツ色は?」

「きれいだけど、すぐに散っちゃうんだなあって」

「そりゃ、そうだ」

萌花がため息をついた。呆れたのか、共感してくれたのか。

「炭酸水、飲む?」

彼女が持っていた袋を掲げる。

「いや、いい」

「どうせ、酒の方がいいってんだろ」

私の腕を軽く叩く。

「ワイン、飲みにおいでよ」

彼女はフレンチレストンで働いている。

シェフの名前が付いた有名な店だ。

ソムリエーヌの資格を取るんだと、彼女は言う。

「三ツ色さん、来ないなあって、木俣さんが言ってたよ」

木俣さんは、彼女の師匠のソムリエである。

「コースとワインで三万円超える店に、そうそう行けない」

萌花が笑う。

「貧乏物書きが。なんとか賞を取って、豪遊しに来い」

手を上げて彼女が行く。

十歩ほど離れてから振り返って言った。

「桜、散ったって、また来年咲くんだから平気だよね」

「おい」

「なに?」

「今日は仕事はいいのか?」

「今、何時だと思ってんだよ。私は、三時に出勤すればいいんだよ」

口が悪いのが欠点だ。