しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/04/03思い出すことなど

昼食を買いに出た。

新年度の週初めである。

入社式や顔合わせ、新人研修など、

忙しい一日だろう、世間さまは。

そう思っていたら、桜を惜しんでか、

花見客が弁当を広げている。

けっこうなことだ。

こんな雰囲気が、健全というものだ。

 

昔、勤め先に苦手な先輩がいた。

エネルギッシュで行動力がある。

当時のCMにあった「24時間働けますか?」を

体現するような人だ。

我が強く、我が儘でもあった。

仕事熱心で、上司にも食ってかかる。

当然、後輩には厳しかった。

理不尽なことも多く、

いったん不評を買うと、ひどい目にあったものだ。

 

ある日、休憩室に行くと、彼がひとりで座っていた。

「おはようございます」

挨拶はかかせない。

「おう」

どうしたのか、元気がない。

「天気のせいかなあ。なんかしんどいわ」

「また、昨日飲み過ぎたんですか?」

「いや、そんなことはないねんけど。なんか頭も痛いし…」

「あまり、無理しないでくださいよ」

「うん、ありがと」

なぜか、礼まで言われた。

いつもなら「なに生意気言うてんねん!」と返されるところだ。

あきらかに変だった。

 

その後、彼は倒れた。脳出血だった。

 

発見が早く、命は取り留めたが、

手足に麻痺が残った。

そのせいだろうか、

穏やかな性格に変わった先輩に、

私たちは戸惑ったものだ。

 

その後、彼はボランティアに打ちこみ始めた。

自由にならない体で、施設や学校に出かけていく。

今では、ボランティア団体でも〝先輩〟である。

その〝先輩〟が言っていた。

「好きなことができて、今がいちばん楽しいわ」

 

新社会人も、時間を大切にして、好きなことを大切にしてほしい。

そう思う。

 

弁当を買った。

ひとりで花見は恥ずかしい。

部屋に戻る。

テレビをつけて、蓋を取る。

ワイドショーはプロ野球WBCの話題。

まだWBCで引っ張っているのか、と思う。

それでも天才音楽家の訃報を見ながら、

生姜焼きをつまむのは、あまりに悲しい。

天才二刀流選手の活躍を見たほうが、

哀しみも癒える。

 

なんということだ。

夜には

WOWOWで『戦場のメリークリスマス』がある。

それは、酒でも飲みながら観るとしよう。

 

そんな春の一日である。

f:id:fabuloushunter:20230403173943j:image