昼食を買いに出た。
新年度の週初めである。
入社式や顔合わせ、新人研修など、
忙しい一日だろう、世間さまは。
そう思っていたら、桜を惜しんでか、
花見客が弁当を広げている。
けっこうなことだ。
こんな雰囲気が、健全というものだ。
昔、勤め先に苦手な先輩がいた。
エネルギッシュで行動力がある。
当時のCMにあった「24時間働けますか?」を
体現するような人だ。
我が強く、我が儘でもあった。
仕事熱心で、上司にも食ってかかる。
当然、後輩には厳しかった。
理不尽なことも多く、
いったん不評を買うと、ひどい目にあったものだ。
ある日、休憩室に行くと、彼がひとりで座っていた。
「おはようございます」
挨拶はかかせない。
「おう」
どうしたのか、元気がない。
「天気のせいかなあ。なんかしんどいわ」
「また、昨日飲み過ぎたんですか?」
「いや、そんなことはないねんけど。なんか頭も痛いし…」
「あまり、無理しないでくださいよ」
「うん、ありがと」
なぜか、礼まで言われた。
いつもなら「なに生意気言うてんねん!」と返されるところだ。
あきらかに変だった。
その後、彼は倒れた。脳出血だった。
発見が早く、命は取り留めたが、
手足に麻痺が残った。
そのせいだろうか、
穏やかな性格に変わった先輩に、
私たちは戸惑ったものだ。
その後、彼はボランティアに打ちこみ始めた。
自由にならない体で、施設や学校に出かけていく。
今では、ボランティア団体でも〝先輩〟である。
その〝先輩〟が言っていた。
「好きなことができて、今がいちばん楽しいわ」
新社会人も、時間を大切にして、好きなことを大切にしてほしい。
そう思う。
弁当を買った。
ひとりで花見は恥ずかしい。
部屋に戻る。
テレビをつけて、蓋を取る。
まだWBCで引っ張っているのか、と思う。
それでも天才音楽家の訃報を見ながら、
生姜焼きをつまむのは、あまりに悲しい。
天才二刀流選手の活躍を見たほうが、
哀しみも癒える。
なんということだ。
夜には
WOWOWで『戦場のメリークリスマス』がある。
それは、酒でも飲みながら観るとしよう。
そんな春の一日である。