しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/09/03

チャラいカナダ人、ロンバード。

萌花のフランス語レッスンも、あと一回になった。

いつもの『タリーズ』の二階。

萌花が来る前に会って、ちょっとしたお礼の品を渡す。

「『モンロワール』。チョコレートなんだ。奥さんと食べて」

「おお、ありがと、三ツ色さん。気が利くね」

「こちらこそ。お世話になった。助かったよ」

「萌花さん、生活はそんなに困らないと思うよ。

耳がいいし、実際、暮らし始めたらもっと慣れると思う」

「そうか。何よりだ。ホントにありがとう」

「けれど、三ツ色さんは寂しくなるねえ。彼女が、遠くに行っちゃって」

「まあ、そうなんだけどね」

それでも必要なことだから、彼女にとって。

「またまた。無理してるね。『行かないでくれ~』とか言わなかったのかい」

言うわけないだろう。そんなことを言うほど若くない。

思ったとしても、言うべきではない。

それに、永遠に別れるわけでもない。

「そんなものかねえ」

カナダ人が首を傾ける。

「そんなもんなんだよ」

私は、ロイヤルミルクティ

吸い上げた。

 

レッスンの時間になり、萌花がやって来た。

私と同じ物がトレーに乗っている。

「おんなじだね、三ツ色さん」

うれしそうに言う。

ロンバードが、ニヤニヤ笑う。

「それじゃあ、しっかりな」

私は席を立つ。そこに萌花が座った。

ロンバードには、軽く頭を下げる。

じゃ、よろしく。

彼が手を挙げて応えた。

 

私は、ギターケースを持って、

次の目的地へ向かった。

バンドは、キーボード担当の木之内先生が勤務する

学校で練習していたが、

夏休みが終わり、生徒の下校後でないと使えない。

そのために、夜の集合になるが

ウチナンチュの内名さんは、沖縄料理店で働いている。

当然、忙しい時間だ。

それでも、彼はニコニコしながらやってくる。

「商売、大丈夫なんですか?」

なんくるないさあ」

ホントに「なんくるないさ」って言うんだ。

いやいや、そうではなくて!

内名さんは、店のサブチーフである。

「サブだからね。チーフがいるから平気」

「学校で言うと、副校長みたいなものね」

木之内先生が、お気楽な感じで言う。

いやいや、副校長先生、いないと困るでしょ。

「そうかなあ」

木之内先生は、具体的な誰かを想像しているようだ。わからないけど。

 

可哀想だな、副校長先生。