しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/03/19

この町でも、WBCは話題に上る。

エルベ(商店街の中の〝喫茶店〟だ。カフェではない)で、

ゆでたまごに塩をふりながら、香田さんが話しかけてきた。

隣の席、スポーツ新聞を横に置いている。

「大谷はバントも上手だねえ、さすがだね。

ねえ、センセイ」

 イタリア戦のセーフティバントのことだろう。

「そうですね」

 私はノートにアイデア出しをしていた。

中断したくなかったので、おざなりな返事になる。

「ワールド・ベイスボール・クラスィックならではのプレーでしたねえ」

 香田さんの背中側に座っていた男性が、参加してきた。

名前は存じ上げないが、ときどき見かける中年男性だ。

「大谷には、アンチがいないじゃないですか、選手にもファンにも。

普通、あれくらいになると『大谷は好かん』とか『あんなのたいしたことない』

なんて言う人間が出てくるもんですけどね」

 なるほどと感心する。

「そうやねえ」

 香田さんも同意する。私はペンを置いて頷いてみせた。

「ワールド・ベイスボール・クラスィックでは……」

 彼はWBCを略さない主義をお持ちのようだ。

しかも、発音が妙にいい。

 おもしろくなり、三十分ほど盛り上がった。

途中からエルベのご主人まで加わる。

私の作業ははかどらなかったが、まあ楽しかったから。良しとする。

 帰り、一杯。昼酒である。日曜日だから許して。