しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2024/02/02ノロケていたら、退院が決まる

「ベッド、どうしようか」

萌花がきわどいことを言う。

まあ、ご両親公認だからいいんだけど。

「三ツ色さんのベッド、セミダブルでしょ」

そうですよ。

 

カノンがいたときは、2台並べて置いていた。

六畳ほどの部屋にギリギリの大きさで、

足元の方からよじ登っていたものだ。

カノンが亡くなって、一台を処分した。

 

だから片方が空いている。

 

「しばらくは、俺のベッドを使うか?」

「え、いいの」

なぜか、萌花がうれしそうだ。

そんなにおっさんの寝床がいいのか?

「退院が決まったら、キミのを買おう。

ニトリでもMUJIでもいいから探しておいて」

いいよ、別に、私は。

意外なことを言う。

いやいや、それはだめだろう。

だいたい、狭いって。

「いいじゃん、くっついて寝ようよ」

 

なんだかノロケている。

それどころではないのは、お互いにわかっている。

だからはしゃいでいる、無理をして。

 

私は収入が不安定な、フリーランスのライター(元教師)。

おまけに、大けがで入院中。

彼女は、将来の資格取得をフイにして、

現在無職の元レストラン勤務(元アイドル候補生)。

 

はしゃいでいる場合ではない。

しかし、

はしゃがないと、しゃあないじゃないか。

せめて、ノロケさせてくれ。

 

まもなく入院して一か月だ。

そろそろ退院されてもいいでしょう。

担当医に言われたのは、

萌花が私の洗濯物を持ち帰ってくれたあとだった。