「ベッド、どうしようか」
萌花がきわどいことを言う。
まあ、ご両親公認だからいいんだけど。
「三ツ色さんのベッド、セミダブルでしょ」
そうですよ。
カノンがいたときは、2台並べて置いていた。
六畳ほどの部屋にギリギリの大きさで、
足元の方からよじ登っていたものだ。
カノンが亡くなって、一台を処分した。
だから片方が空いている。
「しばらくは、俺のベッドを使うか?」
「え、いいの」
なぜか、萌花がうれしそうだ。
そんなにおっさんの寝床がいいのか?
「退院が決まったら、キミのを買おう。
いいよ、別に、私は。
意外なことを言う。
いやいや、それはだめだろう。
だいたい、狭いって。
「いいじゃん、くっついて寝ようよ」
なんだかノロケている。
それどころではないのは、お互いにわかっている。
だからはしゃいでいる、無理をして。
私は収入が不安定な、フリーランスのライター(元教師)。
おまけに、大けがで入院中。
彼女は、将来の資格取得をフイにして、
現在無職の元レストラン勤務(元アイドル候補生)。
はしゃいでいる場合ではない。
しかし、
はしゃがないと、しゃあないじゃないか。
せめて、ノロケさせてくれ。
まもなく入院して一か月だ。
そろそろ退院されてもいいでしょう。
担当医に言われたのは、
萌花が私の洗濯物を持ち帰ってくれたあとだった。