しおかぜ町から

日々のあれこれ物語

しおかぜ町から2023/04/24親バカ金髪オヤジ

歯医者さんに行く。

三ツ色だって行く。

定期的にクリーニングしてもらう。

チャラそうに見えるけど、マメなのである。

 

待合室で、宗介さんと会った。

何を隠そう(隠してないけど)、

『キンパツ先生、キンパッつぁん』こと

しおかぜ町から2023/04/15〝見た目〟の話 - しおかぜ町から

ジョージ先生の、お父さまである。

 

「おや」

「おや、お久しぶり、どうしたんですか?」

「いやあ、差し歯が取れちゃって。今、間抜けな顔してるんだ」

宗介さんが、ニッと口を開ける。なるほど、左上の前歯がない。

ガハハと笑う。つられて私も笑う。

並んで座る。

彼は、長い髪をポニーテールにしている。

私も長髪だが、色は黒い。

彼は金髪だ。

やさしめの内田裕也

わざわざ染めている。理由がある。

 

彼は、ヨーロッパを旅行、いや、放浪中に

リビアさんと出会った。

彼女は、前年、夫と死別していた。

息子のジョージは、

幼いと言うより、まだ赤ん坊である。

途方にくれていたオリビアさんを、

宗介さんは説得…………口説いた。

正直、謎の東洋人に導かれて、

日本に来る決心をした奥さんは、

かなりの強者だ。

 

宗介さんが、髪を染めるのは、

妻や息子の髪と、同じ色にするためだ。

「家族の証し、なんだって」

キンパッつぁんが言っていた。

「だけど、単に目立ちたいだけだ、と思うんですよね」

 

同じ髪色の家族の肖像画

宗介さんの絵が、店にかけてある。

本人は、自分が絵描きだと言うが、

画家としての実績はない。全くない。

実は、彼はやり手の実業家なのだ。

イタリアンのレストラン。神戸の三宮にバー。

そして地元で、海外雑貨の店を経営している。

絵は、雑貨店に飾ってある。

奥さんが店長だ。

「写真よりいい」らしい。

まあ、夫婦が気に入っているのなら、それでいいや。

 

デンタルクリニックの待合で、

黒髪のロン毛(私だ)と

金髪ポニーテールのおっさんが、

並んで座っている。

片方は、前歯がない。

胡散臭いにもほどがある。

 

宗介さんが呼ばれた。

治療室に入っていく。

「先に終わったら、待ってるから。センセ」

言い残して行きやがった。

いいよ、先に帰ってよ。

待っててどうすんだよ。

私が複雑な顔をしたのだろう。

受付の女の子が

めちゃくちゃ笑っていた。

 

で、

なぜかそのあと

おっさんふたりは近所の公園に行った。

藤がきれいだった。

「ジョージが高校2年生の担任だよ。

やっぱり信頼があるんだな」

血は繋がっていないが、

世界で一番、息子を愛するオヤジが言っていた。

がんばれよ、キンパッつぁん。

親バカおやじの髪がピカピカだ。

歯もくっついたようだし、めでたいめでたい。

余計なことだが

私の歯も、負けないくらいにピッカピカだ。

めでたし、めでたしである。